小説
遠藤周作「ヘチマくん」を読んだ。純文学、エッセイは数冊読んでいたものの、ユーモア小説は初めてだった。 ヘチマくん (P+D BOOKS) 作者:遠藤 周作 小学館 Amazon ユーモア小説とは、軽快なタッチで描かれた、上品なおかしみがある小説のことを指すらしい。…
道路の側溝の蓋をはずして、底に沈むヘドロを小鍋に一杯。それを自らの内臓に入れてくつくつと煮込んでいるような1週間でした。 もはや、どうにかしたいとも思わない。こんな時のためにジョーカー要素で待機させていた「苦役列車」に手を伸ばす日が来ました…
同じ毎日だと思っていても、行動はグラデーションのように移り変わっていくものです。長らく1冊ずつ私的な読書レビューを続けてきましたが、余裕のなさに思うことがあり、今年から簡単な読書記録として日記をつけはじめました。 身も心も軽くなってはいるも…
年末年始の長期休暇で心が閉じてしまったのか、言おうとしてやめることが多発しています。 「旅行、楽しかったですか?写真見せてください!」 「芥川賞とれなくて残念でしたよね、もう読みましたか?」 「今日お弁当忘れちゃったんですよね、お昼一緒行きま…
「金魚の夢」を読んだ。この本の変わっているところは、向田邦子「著」じゃなくて「原作」というところ。ドラマの放送台本を別の人が小説化したものだった。文章の違いなど細かなことは分からないけど、視点や展開など、物語の中に向田邦子成分はたっぷりと…
星野智幸著「ひとでなし」を読んだ。北海道新聞、中日新聞、東京新聞、西日本新聞、神戸新聞に、2022年8月~2024年7月まで連載していたもの。連載していたことは知らず、書店の平積みで帯のコピー、目次、初めの1ページと読んだら主人公の人生が気になり、す…
昨日のほぼ日エッセイ・今日のダーリンで「考えても考えてもどうしようもない問題」について触れていた。ほぼ日刊イトイ新聞 - 昨日の「今日のダーリン」(毎日更新でバックナンバーは見れないため、2024/10/30の午前中くらいまで ↑ から読めます。) イトイ…
先日、イラストレーター・春日井さゆりさんの個展をたまたま見かけてじっくり味わうことができました。 思い出深い本の表紙絵が大きく飾られていたので、見た時は本当に驚いたなあ。今日は出会いの瞬間を、物語風(?)に紹介してみます。 ーー*ーーー*ー…
フレッド・ホイル著「10月1日では遅すぎる」のレビューも3回目になった。流石にこれでおしまいにする。1回目はうっとりした読後感を話し、2回目は物語のテーマでもある「時間の感覚」について深堀りした。今日は最後に個人的な感想ということで、主人公と音…
これでよろしくて? (中公文庫) 作者:川上弘美 中央公論新社 Amazon 川上弘美著「これでよろしくて?」を読んだ。主人公は38歳の専業主婦、菜月。夫の光と2人暮らしで、子供はいない。特に大きな不満もなく淡々と暮らしている中に一つの転機が訪れる。 商店…
フレッド・ホイル著「10月1日では遅すぎる」を再読している。 この物語は、時間の感覚が不確かなものになった世界で、人類の行く先はどうなってしまうのか?その様子を主人公が奏でるピアノ曲が彩っていくような構成になっている。再読する中で、ほんの少し…
先日のこと。お茶を飲みながらぼーっと本棚を見ていると、「10月1日では遅すぎる」という本が目に入った。 私の目の前にはいつも少しのSFがある 10月1日では遅すぎる (ハヤカワ文庫 SF 194) 作者:フレッド ホイル 早川書房 Amazon ちょうど9月が終わるとこ…
ポン、と机の上に置かれていた本の、キャッチ―な帯が気になった。 「ダメ男小説の金字塔」 …気になる。読まずにはいられなくて、買って来た家族が読む前にわたしが読んでしまった。 ぼくのともだち 作者:エマニュエル・ボーヴ 白水社 Amazon 主人公はヴィク…
先週末、百年の孤独を読み終えた。マコンドという土地と、ブエンディ―ア一族にまつわる物語。 百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez) 作者:ガルシア=マルケス,ガブリエル 新潮社 Amazon 感想に迷って3日も経ってしまった。こねくりまわしてもうまくいかな…
トマス・M・ディッシュの「いさましいちびのトースター」を読んだ。 本作は、ローカス賞・英国SF協会賞・日本では星雲賞海外短編賞を受賞した、すごい子供向け作品。著者の他の作品を読んだことがないのだけど、SFやミステリーなどでかなり有名な人らしい。…
あまりにも悲しいことが起きて、もう一生立ち直れないと思っても、時が経つにつれまた立てるようになる。それもまた悲しいことだと感じる。 キッチン 作者:吉本ばなな 幻冬舎 Amazon 昨日に引き続き、吉本ばなな著「キッチン」のレビューをしていく。今日話…
よしもとばななの「キッチン」を再読した。読み進めるうち、友人との古い記憶が蘇ってくる。年齢でいうと、21歳とかそのくらい。恐ろしく昔だ…!不思議なことに、以前レビューした著者の別作品「白河夜船」で思い出した友人と同じだった。どうやらこの人の本…
何が起きても、自ら復活できるのがこの男。世界が、他人が、どんな状況で何が起きようとも。この人間は自分で自分に意味を持ち、立ち上がれる。わたしは誰がなんと言おうと、この物語と、この生き様が、好きだ。 俺の歯の話 作者:バレリア・ルイセリ 白水社 …
乗代雄介著「最高の任務」を読んだ感情を話していく。 誤字ではない。今日書くのは「感想」に満たない「感情」となる。 終盤にかけて涙が止まらなくなり、嗚咽しながらなんとか読み終えた。帰ってきた家族のどん引きした顔。時間をおいて読み直しても変わら…
乗代雄介著「最高の任務」を読み終えた。2つの中編からなる本で、今日は1つ目の「生き方の問題」について話をしていく。 最高の任務 (講談社文庫) 作者:乗代雄介 講談社 Amazon 過去には「十七八より」、「本物の読書家」を読み、それぞれにうまく言葉にで…
九段理江著「東京都同情塔」を読んだ。言わずと知れた第170回芥川賞受賞作、やっぱり気になって手に取った。 自分を建築するために、言葉を選び、考え、積み上げる。主人公のストイックなあがきと苦しみに魅せられた。少し先の未来の悩みは、こんな感じかも…
わたしは以前、何もかも分からなくなる、という体験をしたことがあります。 どうして朝起きて、メイクして、服を着て、誰かと会って、ご飯を食べて、夜眠っていたんだっけ。一つひとつに何の意味がある?そもそもどうやってやるんだっけ?笑っちゃうようだけ…
はっきりとわかったことがある。世界は大きく二分できるのだ。ノミにさされた人間の世界と、ノミにさされていない人間の世界と。 江國香織著「ぬるい眠り」より引用 世にも恐ろしい「ノミ」にまつわる小説を読んだ。 短編集「ぬるい眠り」は、著者の江國香織…
2023年現在、ブログを始めたと伝えたときの反応ナンバーワンは「なんでブログ?オワコンじゃね?」である。今年何度言われたことか。まあ数人にしか言ってないし、繰り返し言ってくるのは家族なんだけど。 確かに、いまどこかに書いておきたいと思うなら断然…
まったく、もう!と思いながらも、人は互いに許容しあって生きているんだった。 主人公を通していろんなタイプのしょうがない人を見ていくうちに、そんな考えが自然と湧いてきた。 今日は、平安寿子著「しょうがない人」をレビューする。 しょうがない人 (中…
山本文緒著「自転しながら公転する」のドラマ化まで1週間を切った! ドラマを楽しむためにレビューを重ねてて、今日で3回目。全5回の予定で進めている。なんとなく始まる前に整理したいから、スピードアップしないとな。できるだけさらっとやっていこう。 初…
山本文緒著「自転しながら公転する」は、介護、老い、恋愛、仕事と多方面に悩む主人公の苦悩を描いた長編小説。前回は全体の内容について話したので、今回は主人公(都)の母親、桃枝に焦点を当てていく。 というのも、病気になって自分が別の人間になってし…
山本文緒著「自転しながら公転する」を読んだ。30・40代の女の悩みを詰め合わせた、わたしにとっては総集編のような本だった。 老いていく親への心配と、介護などで自分の自由がなくなっていくもどかしさ。 確実に若くなくなっていく自分。 将来を約束するに…
いつかのわたしが買った小説、西加奈子の「おまじない」を読んだ。著者の作品は初読みだった。30ページくらいの短編が8つと、巻末には長濱ねるとの対談が12ページ載っている。それぞれの物語のイラストは、著者本人が描いているらしい。 まあもう今日に始ま…
この間読んだ向田邦子作品「隣の女」に魅せられ、その後本屋でたまたま見かけた「思い出トランプ」を読んでみた。 小説新潮にかつて連載していた短編連作で、連載終了を待たずに直木賞を受賞したというこの小説。話数はトランプの絵札と同じ13。連載順ではな…