食に関する7つの短編集、小川糸著「あつあつを召し上がれ」を再読。読んだのはずいぶん前のことなのに、はじめの5行くらいで懐かしさがこみあげてくるのってすごいよなあ…
今も昔も、好きな話は変わらなかった。
「さよなら松茸」
30代最後の日、別れる彼と旅行に行く話。
こんなのしんどいに決まってる、と分かりきっているのに行く不思議。わたし自身、自分の感情が処理できないと、何もかもがフリーズすることがある。いろんな感情が交差してキャンセルのタイミングを逃した主人公の気持ちが、なんとなくわかる。
旅館の美味しい料理を食べて心も体も暖かくなりそうなところを、こみあげてくる感傷がさっと冷やしていく。終始そんな空気の冷たさとか、しらけてしまった雰囲気が切ない。
ここまでに至るなかで感情をうまく出せなかった主人公に、いつかの自分が重なったな。結末にかけてはウワーーーっと感情が押し寄せてくる、こんなの、、あるな。そんな気持ちが、かつてあったんだよな。
彼女は内省的だろうから、これから辛いターンが何度も来るだろう。でもいまは淡々と、情景を感じるままの姿がリアルだった。
「季節はずれのきりたんぽ」
亡くなった父の四十九日に、母と娘で父の好物のきりたんぽを食べる話。
思い出話をしながら支度をする二人は、それぞれにこらえた明るさがある。父を支えてきた母の考えや行動が、少しずつ変わっていくのも印象に残った。
最後なんて、なんかもう泣き笑いで愛しさがこみ上げてくる。母親の、よい思い出も嫌な思い出も同じくらい大切にしているところ、全部抱きしめながらつとめて明るくいようとするところ、こんな人にすごく憧れる。
きっとこれまで日々のことを丁寧にやってきたから、こんな風になれるんじゃないかと思う。言い訳してばっかり、文句言ってばっかりじゃこうはなれないよな。
ほかには、
「いとしのハートコロリット」は、気付いた瞬間にヒヤッ…っとする感じがあるし、「ボルクの晩餐」は戯曲のよう?役者一人+声の、舞台で見てみたいなという気持ちになった。
小川糸の本はこれしか読んだことがないけど、個人的に特徴として感じるのは、「センチメンタルなシーンにどっぷりとは浸からないところ」。
う…きた…と押し寄せたところで、「まあ、これでも食べて、ちょっと落ち着こう?」と、著者がちょっと救ってくれる感じ。その後にまた、ほんの少しの切なさやあたたかさををまぶして…って、この短編ごと、1つの料理みたいな雰囲気がある。
きっと、著者はこういう救いのある、あったかいところがある方なんだろうな、素敵だな。