山本文緒著「自転しながら公転する」を読んだ。30・40代の女の悩みを詰め合わせた、わたしにとっては総集編のような本だった。
老いていく親への心配と、介護などで自分の自由がなくなっていくもどかしさ。
確実に若くなくなっていく自分。
将来を約束するには頼りない恋人。
次々と問題が起こる職場。
途中あんまり浮かばれなくてしんどくなったけど、最後まで読んでみて、うん、腹落ちした。
主人公のように、この物語の世界と、登場人物と自分自身とを、ぐるぐる回りながら感想を話していく。
あらすじ
主人公の都は32歳。アパレルの時間労働契約社員としてアウトレットモールで働いている。東京で販売員をやっていたけど、体調が悪い親の看病をするために実家に帰ってきたのだった。
どこか漠然とした不安を抱えているなかでも、彼氏ができた。それでもどこか満たされない思いがふくらんでいく。仕事場では次々起こる問題に振り回され、自分はどうしたらよいのか、次第に分からなくなっていく。
悩みは「自転しながら公転する」
何が自分にとって大切なのか?自分の最適解はどれなのか。都の思考は回り続ける。
「家事をやりつつ、家族の体調も見つつ、仕事も全開で頑張るなんて、そんな器用なこと私にはできそうもない。でも世の中の、たとえば子供いる人なんかは、みんなそうしてるわけでしょ。(中略)なのに私、これしきのことで、なんか頭がぐるぐるしちゃって」
山本文緒著「自転しながら公転する」(新潮社)より引用
この言葉には、うなだれながらも共感した。
わたしの住んでいる地域は共働きの家庭が多く、朝と夕方は自転車の前後に幼い子供を乗せたお母さんが行き交っている。仕事が終わってくたくたでも、やることは山のようにあるだろう。子供のいる友達に話を聞いても、あまりのハードさと逃げ場のなさに言葉を失う。
まさにジャグリングで何本もピンを回すような生活。しかもそのピンはどれも大切なもので、一つでも落としたらバラバラに崩れてしまう。そのうえ身内の介護も組み合わさったらと思うと…気が遠くなる。
「そうか、自転しながら公転してるんだな」
山本文緒著「自転しながら公転する」(新潮社)より引用
都の率直な言葉に、恋人の貫一はこう答える。
地球は自分で回転しながら、太陽の周りを回っている。酔った貫一は都の悩みにこんな壮大な話をして、その場ではポカンとした空気が流れる。
でも、これが後からじわじわと効いてくる。自分でぐるぐる悩んで考えてを繰り返しながら、周囲は少しずつ変化していく。
堂々巡りなようで、一時として同じ瞬間はない。そういうことが物語を読むなかでにじむように伝わってくる。
今日紹介した介護/老い/恋愛/仕事の悩みは、主人公・都の悩み。それ以外にも恋人・貫一のコンプレックス、重い更年期障害に苦しむ母、それぞれの境遇で不満と不安に立ち向かう友人と、本当にたくさんの悩みが入り組んでいる。全部がらせん状に組み合わさって、からみ合っている。
みんな、スパイラル状に人生を駆け抜けている。
明日死んでも悔いのないように、長生きしても大丈夫なように
都を見て、甘いとかずるいとか、悩める時間があるだけいい、という人もいるだろう。親の看護といってもそこまで本格的ではなく、持ち家の実家があるから金銭的な心配はそこまでない。考えの甘さや他人任せな点も目立つ。
でも、だからこそ悩みが深くなるのだと思う。少し知ることで、これからどうなってしまうのか、よりリアルに想像ができる。得体の知れない膨大な大きさまで悩みは膨らむ。
それに都は、自問自答を繰り返したり、人と話すなかで少しずつ気がついていく。思い悩む分、ちゃんと自分の気持ちに向かっている。嫌なところも含めて、自分の感情を見なかったことにしない真っ直ぐなところがある。
何かに拘れば拘るほど、人は心が狭くなる。
幸せに拘れば拘るほど、人は寛容さを失くしていく。
山本文緒著「自転しながら公転する」(新潮社)より引用
幸せを追い求めるのではなく、思い通りにならない日々を丸ごと抱きしめるように受け入れる。ひとりで辛かったら、誰かと助け合えないか知恵をしぼる。
明日死んでも悔いが残らないように、長生きしても心配ないように。わたしにできることはまだまだあると感じた。
実写ドラマ化、楽しみにしています!!
12月14日(木)、21日(木)、28日(木)のいずれも23時59分から。