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読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

あの頃のわたしたちに会えるーよしもとばなな著「キッチン」再読レビュー

よしもとばななの「キッチン」を再読した。読み進めるうち、友人との古い記憶が蘇ってくる。年齢でいうと、21歳とかそのくらい。恐ろしく昔だ…!
不思議なことに、以前レビューした著者の別作品「白河夜船」で思い出した友人と同じだった。どうやらこの人の本を読むと、あの頃のわたしたちに会えるらしい。
今みたいに相互理解の最短距離を目指して分かりやすく伝え合うのではなく、感覚と感覚で気持ちのやり取りをしていたあの頃だ。

「キッチン」は吉本ばななが初めて出した小説で、3話収録されている。「キッチン」「満月ーキッチン2」そして大学の卒業制作作品「ムーンライト・シャドウ」。今日は、キッチンの話をしていく。

(わたしの主観が強く入った)あらすじ

両親を早くに亡くし、育ててくれた祖母も亡くなってしまった。主人公のみかげは若くして天涯孤独の身となったが、それでも生活は続く。古い家を片付けていたとき、不意に祖母の知り合いの雄一が手を差しのべてくる。
これは残されたものたちが、自分の感性を使い「失ったもの」に対して考えていく物語。

あの頃のわたしたちの空気感がある

若い時はとにかく何もわからない。わからないこともわかってない。というか、かけがえのないものを失ったときのやるせなさなんて今も到底わからない。
得体の知れない「わからなさ」に対してできること。それは知識を蓄えたり人に教えを乞うたり、色々ある。だけどこの物語はそんな合理的・論理的な処理はしない。
自分の感性をさらけ出して(または他人の感性と溶け合って)考えていく話だと思う。むしろ、著者の作品には一貫してそういうところがあるかもしれない。
多分、昔のわたしたちはこうだったのだ。今のわたしたちは気持ちを表現する言葉をたくさん覚えたせいか、空気感のやり取りは減った気がする。それが大人になったということだろうか。

論理<<<感覚だったと思っているけど、結局今もだ

いや、こんなこといってるけど、わたしたちは現役バリバリの「感覚派」だ。大人になって少しは論理的に考えられるようになったようで、恐らくちっともなっていない。わたしたちは今も、これからも、この物語みたいに進んでいく。

ただ、キッチンの時の空気感はあの頃のわたしたちとすごく近い。ふわっとしたイメージとイメージのやり取り。わたしは過去をそう振り返るけど、友人はどうだろう。まあ、気恥ずかしくて聞けそうにないな。

今日はいつもに増して主観が強いレビューになってしまった。これは作品に対して失礼なのかもしれない。だけど素直に感じたわたしの思いはこうだ。

正直にいうと1話で気持ちよく終わっていたな~という印象もある。あと久々に読むと、展開のありえなさにはいつも「おうっ…」とは思う。だけど、こんな世界があったっていーじゃないか。むしろわたしはそこに救いを感じる。

ちなみに、みかげにとっての「キッチン」は、わたしにとっての「お風呂」です。家の中でも、特別な場所ってあるよなあ。

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