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主人公じゃないけど、この人がどうも気になる。「自転しながら公転する」感想③

山本文緒著「自転しながら公転する」のドラマ化まで1週間を切った!

ドラマを楽しむためにレビューを重ねてて、今日で3回目。全5回の予定で進めている。なんとなく始まる前に整理したいから、スピードアップしないとな。できるだけさらっとやっていこう。

初回は介護・老い・恋愛・仕事に悩む主人公の都(みやこ)を軸にして、物語全体を振り返った。

2回目は、病気や周囲の変化を経て生活をリサイズするに至った、都の母親を深堀りした。

3回目の今日は、都の恋人「貫一(かんいち)」に焦点を当てていく。

彼は今まで会ったことない感じの人で、どうもこの人が一番気になっている。読み終わった今、ぜひ会ってみたい人でもある。今回は彼が気になるポイントとして「読書」「ボランティア」「学歴コンプレックス」の3つに着目して話していく。

貫一目線のあらすじ

(貫一が一人称の場面がないので、少しだけ)

アウトレットモールの寿司屋で働く貫一は、車の修理をきっかけに服の販売員の都(みやこ)と付き合い始める。
「貫一とおみや(お宮)」なんて、小説の金色夜叉みたいじゃないか、と運命的なものも感じながら、日々は過ぎていく。

結構な読書家

だいたい2日に1冊、近所の本屋で買った本を家で読むのが日課。読み終わったらカラーボックスにボン、と放り込むのが彼の読書スタイル。

てことは年に150冊以上…?すごい読んでるな。でもそれ以上に気になったのは、貫一の読書はわたしと似ていると(勝手に)思ったから。読み進めるうちに、貫一にとって読書とは「趣味であり、逃避でもあり、心のよりどころ」になっているように感じた。

わたし自身には特に理由はないと思っているけど、貫一を見ていると読書と彼との因果関係が見えてくる。

彼のことをもっと知りたいな…と思うようになった。

ボランティアは唯一無二の経験

過去に被災地ボランティアに行った経験が、間違いなく今の貫一を構成する柱になっている。見返りなく人のために動き、そこから人の輪が広がっていく。読書の習慣も、そこで出会った人からの影響がある。

色んな意味で、この時の記憶はこれからもずっと彼の芯にあるだろうな…と思う描写が多い。

また自分語りになるけど、わたしは今やってみたい分野のボランティアに応募しようかちょうど迷っているところだった。仕事と家庭と体調との兼ね合いが難しそうで、足踏みしている。だけどこういう決断をするときの貫一は、とにかく行動が早い

それが被災地支援で緊急性が高かったこともあるけど、例えば都との出会いのきっかけも、車の不調にすぐ助けに入ってくれたことだった。誰かの役に立てそうなら素早く行動するところが、本当にすごいと思う。

それを主人公で彼女でもある都も認めていて、でも時にそれが暴走することもあって、都の悩みの種にもなったりする。

貫一は都の心の均衡を崩した。彼の善行も悪行も、都をかき乱す。自分はしないことを彼は易々とやる。彼は都にとって理解不能で、認めたくない存在で、そして憧れだった。

山本文緒著「自転しながら公転する」より引用

都が貫一のことを話しているこの場面は、貫一の魅力を端的に表した言葉だと思う。後先考えないところがあるけど、自分がこれだ、と思ったことには迷いなく進む。憧れるけど、難しいものだな…と思う。人間性として危ういところにも、惹かれる何かがあるんだよなあ。

「学がない」それは、そうなんだけど

はじめにも少し触れたけど、貫一には学がない。これは…環境と、本人が選んだことではある。しかし学歴がないことで、いろんなものを諦めて、手放した。

就職の幅が狭まったり、人と望んだ関係を築けない体験をして、貫一に暗い影を落としていく。

おみやがそんなことで差別するような人間じゃないってことくらいわかってる。そうじゃないんだよ。でも不安なんだろう?不安なのは耐えられないんだろ?育ちがいいってそういうことだって俺思うんだ。

山本文緒著「自転しながら公転する」より引用

この言葉には、貫一のやるせなさだったり、後悔が滲んでいて思い出すだけで辛くなる。学歴とか、教養とか、育ちとか、その人間の土台だからどうしようもないんだろうか。

貫一は多くを語らないけど、きっとこれでぐるぐると悩んでいる。そしてもう、流れ流れてしまわないように、本を読んでいる側面もあるだろう。

都との関係性として「連帯して生きる」っていうのがあるんだけど、このことを話した時の都がかっこよかった。貫一がハッと我に返ったときは、わたしまで視界が明るくなった。連帯して生きることって、劣等感も分かち合うことが出来るのかもしれないと思ったりもした。

人間性、人生観がどうしようもなく気になる

気になっているだけあって、ちょっと美化しすぎたかもな。彼は元ヤンで、そして理屈っぽくてうんちくが止まらないところもある。

何をしたって過去にやった悪行は消せないし、その罪滅ぼしで善行を施している側面もあったのかもしれない。それにうんちくだったり理屈っぽいところは、自分の心を晒したくない臆病なところがあるんじゃないか。自分の言葉で話せない自信のなさのようなものも感じる。

主人公じゃなくても、物語を構成する一人の人間に注目するとこれだけ見えてきた。物語の主軸は彼じゃないけど、わたしは貫一の人間性や人生観がすごく気になる。あと、選んでいる本も気になる。多分私とは全然違そう。

30代の貫一の過ごし方はこんな風だったけど、その後は何を思って過ごしていたのだろう。ほんの少しは見えたけど、もっともっとそこが知りたい。ただ人となりが気になっているのか、気質に共鳴したのか、何なのかは分からない。

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