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あなたもわたしも「しょうがない人」(平安寿子著「しょうがない人」レビュー)

まったく、もう!と思いながらも、人は互いに許容しあって生きているんだった。

主人公を通していろんなタイプのしょうがない人を見ていくうちに、そんな考えが自然と湧いてきた。

今日は、平安寿子著「しょうがない人」をレビューする。

あらすじ

なんだか自分ばっかり損してる気がする。面倒ごとに巻き込まれて割に合わない。こんなにわたしはちゃんとしてるのに!…とまではいかないまでも、こんな気持ちは結構浮かんできがちだ。

主人公の日向子は夫と娘の3人家族。友人が経営する会社でパートをしながら、家事・育児をこなしている。

彼女の周りはしょうがない人ばかりだ。あーあ、またかと思いながら、パート先の女性陣とティーブレイク。あーだこーだと話しながら生きている。

たとえばこんな「しょうがないひと」

日向子の周りには、こんな「しょうがない人」がいる。

  • 情緒不安定のうえマウントもとってくる従姉
  • 自分のことだけ一方的に話し、勝手に結論を出しては去っていく知り合い
  • 何を考えているかわからない、思春期モンスター化した娘
  • いちいち当てこすってくる割に甘えてくる義母
  • 相続をめぐる姉妹間のいざこざ

とくに初めの情緒不安定な従姉は!相当嫌になった。あれが許容できれば、その後のしょうがなさなんてまだなんとか持ち堪えられそうに感じる。

いや、許容できる分野と程度には個人差があるな。なので私にとって初めの人が一番無理だったけど、他の人にとっては別の人が生理的に無理!!という人もいるだろう。自分はどこまで許容できるのかを試すのも面白そうだ。

どさくさに紛れて、わたしが出会ったしょうがない人も(言える範囲で)言ってみよう。

  • 頑なに「ある程度」までしか仕事をしない同僚(過去の職場にて。区切りをつけるのが上手いともいう。うらやましいけど、もうちょっとクオリティあげてもよくね?とか思ってしまう。ちなみに総じて省エネのため、非協力的なところも考えものだった。)
  • 相談してくる割にわたしの意見は聞いていない知り合い(いつか両肩を鷲掴みしておーい!聞こえてるか!と呼びかけたい。そのうえ「こないだ相談したあの人がこんなことを言ってくれてね…」ってそれ、こないだわたしが言ったやつだわーい!!!いま思い出しても笑けてくる哀しさ。)
  • 家事を手伝ってくれたはいいが、いつものやり方にいちゃもんつけてくる家族(これはただの愚痴、適当にやってるのバレちゃっただけ。でもじゃあ得意な方がやれば良くない?!と開き直りそうになる心の狭さよ…)

ああ、言える範囲だとこんなことでっ感じになっちゃうな、でも「…まったく、もう」って思っちゃってるのは確かなんだ…ちっちゃいなあ自分。

「しょうがない」というか、「しょうもない」というか、

「しょうがない」というか、「しょうもない」ところばっかりなんだ人間なんて。

心に余裕があったり、相手が自分より弱くて可哀想と思うときには寛容なんだ。でもマウントをとられたり、自分に不利な状況になると一転。急に周りが「しょうがない人」であふれていく。そういうもんなんだよ…哀しいけれど。

主人公の日向子だってそうだ。いつも周りのことをまったくもう、しょうがないなあって思ってるけど、妹と相続でもめ始めたときの醜態ったらなかった。

特に友人の渚左に対しての態度はアウトだと思う。話を聞いてもらってる身で、独身の渚左に「自分一人のためにだけ生きればいい人に、きいた風なこと、言ってほしくない」はあんまりだ。

売り言葉に買い言葉でも、言っていいことと悪いことがある。二人は醜い嫌なところも分かち合ってるからいいの?渚左はすぐに切り返せるような強さがあったけど、わたしだったらもう、何も言えなくなる。

渚左だから言ったのだとしても、それは完全に甘えだと思う。親しき仲にも、配慮は必要だと感じる。

…と同時に、わたしにもきっとアウトなところがある。とすぐさまブーメランでぐさっときてしまう。この本を読んでいると、自然とそういうふうに考える。本当に、お互い様に満ちているんだ。この世界は。

あなたもわたしも「しょうがない人」

わたしがさっき言ってた自分の周りの「しょうがない人たち」だって、裏を返せば自分のしょうがなさにつながる

仕事でいえば、わたしはひと区切りをつけるのが下手なうえに石橋を叩きまくる神経質女だし、相談する時は自分でよく考えないままに人に答えを求めようとする勝手なところがある。家事は適当にやってるくせに、全部やってて大変ですアピールする嫌なやつ……え、客観視したら悲しくなってきたわ、やめたやめた。

「みんなおんなじなんだよなあ。あなたをしょうがないと思うわたしもまた、しょうがない人なんだよなあ。」

やんなっちゃいそうになったら、ぼのぼの風にそう唱えよう。

そんで、それがどうにも重荷で辛くなっちゃったら、日向子が職場でティーブレイクする時みたいに、誰かに預けさせてもらっちゃおう。誰でもいいってわけじゃなくて、信頼できる誰かに。そして他の人のを代わりに預かったり。意外と自分に関係ないと重くないもんだし。

この本はそういう考え方を、心あたたまる描写とか、人の愛情を感じる瞬間、とかで表現している物語ではない。でもリアルな世界ってこんな感じで甘くない。

しんどいことも、腹の立つことも、誰かに話して預けて、誰かから受け取って預かる。しょうもないけど、そうやってなんとか生きていくんだ、これからも。

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