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読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

感情が理解を追い越していくー「最高の任務(乗代雄介著)」を読んで

乗代雄介著「最高の任務」を読んだ感情を話していく。

誤字ではない。今日書くのは「感想」に満たない「感情」となる。

終盤にかけて涙が止まらなくなり、嗚咽しながらなんとか読み終えた。帰ってきた家族のどん引きした顔。時間をおいて読み直しても変わらない。

感情が理解を追い越してしまった。仕方がないので、この感情を深堀りしてみる。

あらすじ

「最高の任務」は、主人公・阿佐美 景子と、亡くなった叔母・ゆき江にまつわる3部作の最後の作品。

1作目「十七八より」は回顧録で、高校生の頃の叔母との記憶を、会話を一つ一つなぞるように、細心の注意を払いながら拾い集めていく。2作目「未熟な同感者」では大学生活を送りつつも、読書家だった叔母の蔵書を再読・再考することで見える想いや意図に心を震わせる。本作「最高の任務」では、そんな主人公の「卒業」の様子が描かれる。

叔母の痕跡を探して

主人公は、亡くなった叔母の痕跡をできる限り保存し、その切れ端を確認しては、書いて、思考して、立ちすくむ。それを繰り返して生きている。

大学卒業を前に、主人公がしているのは登山だ。叔母と以前登った山に、自身の記憶と日記の記録を頼りに、痕跡を探るように登る。

この二人には"仲が良い"以上の関係性がある。母親が話す「あなたの教育はあの人に任せてしまったから」の言葉にあるように、主人公は叔母から揺るがない感性を学んだのではないか。

叔母の存在があまりに大きくて、そんな人がこの世を去ってしまったら、やれることといったらこういうことになるんだろう。そしてこの記憶と記録をなぞる虚しい作業は、決して無駄じゃない。

説明したいんだが涙が止まらない

もう…続けて話したいんだけど水みたいに出てくるもんだからこれ……

とにかく一つ言えるのは、この場面が、この文章が、そういうことじゃなくて、この連なった文章が表す情景というか、雰囲気、気配、そういうものが頭をぶわーーーーーっと満たしていくということだ。

読んだ人の中には、そこまでじゃなかったけどね…という人もいるだろう。涙の由来はその人の感性によるもので、人それぞれ違うのが面白い。

「感動」「哀しみ」「喜び」いろいろあると思うけど、これはいうなれば「反射」的な涙だと思う。何かが自分の琴線に触れていることだけは分かるのだけど、勝手に涙が溢れるものだから思考が進まない。身体が勝手に反応していて、知りたいのに先に進めないんだ…

こういう作品は他にもあって、

フォレスト・ガンプ」、これもなぜだか涙でどうしようもなくなってしまう。

はじめのベンチから最後の腰掛けているところまで、ずっと泣いている。

なぜ泣いてしまうのか、これは感動なのか、共感なのか、知りたくなって何度か試したけど、理解を深めるとかそういう段階ではなく、次第に頭で理解しようとするのをやめた。

その時は、「きっとこれは前世の記憶なんであって、前世のわたしがものすごく泣いているんだ。」ということにしていた。(われながらスピってるなぁ…)

いまのわたしはこう考えている。

「ここに来るのは、まだ早いみたいだ・・・」

昔のRPGみたいに、ある程度まで進まないと入れない領域ということでどうだろう。いまも明確な理由は分からないけど、知りたい気持ちは変わらないので経験を積んだ未来の自分に期待したい。

こんな気持ちになるのは生涯できっとフォレスト・ガンプだけだろうと思ってたけど、思いもかけず1作品追加となった。手がかりは一つでも多いほうがいいので良かったことにする。とにかく、いまのわたしが触れられないわたしの心に、この作品が触れたのだ。

なんだか盲目な読者みたいなので、違和感を感じたところも書いておこう…

どうも著者の性に関する描写は苦手かもしれない。この作品に美醜は必要と思うけど、それを表すため?のこの性的描写はなんなんだろう(もう一つの作品「生き方の問題」も別な意味で)ここが主ではないし別にいいんだけれども。きっと、これを入れるしかるべき理由があるんだろうと思う。

わからない。わからなくて知りたいことばかりだ。この人の本は。

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