BOOKS:LIMELIGHT

読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

読書レビュー

真心で人は救えるか〜遠藤周作『おバカさん』感想

遠藤周作の『おバカさん』を読みました。以前読んだ『ヘチマくん』に続いて二冊目のユーモア小説ですが、こちらのほうが先に発表された作品です。 おバカさん (角川文庫) 作者:遠藤 周作 KADOKAWA Amazon 主人公はフランス人のガストン・ボナパルト。昔ペン…

切り貼りで浮かび上がる思想と人生-カート・ヴォネガット『パームサンデー』感想

この記事は、カートヴォネガット「パームサンデー」を読んで「面白かった!」以外の何かの言葉で残しておこうとする試みだ。臆せず書いていこう。 パームサンデー ―自伝的コラージュ― (ハヤカワ文庫 SF ウ 4-21) 作者:カート・ヴォネガット 早川書房 Amazon …

やっぱり人は、物語を求めてる〜額賀澪『拝啓、本が売れません』を読んで~

190ページくらいの短い本なこともあり、久しぶりに一気読みした。 額賀澪『拝啓、本が売れません』 拝啓、本が売れません (文春文庫) 作者:額賀 澪 文藝春秋 Amazon 著者は「松本清張賞」「小学館文庫小説賞」をW受賞して華々しく作家デビューしたものの、思…

遠藤周作に学ぶ、心に届く書き方『十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。』感想

私の数多くある欠点のうちの一つが「連絡不精」です。面倒くさい訳じゃないんですが、いや、結局そうなのかな。「なんて返せば失礼じゃないかな」「どんな風に答えたらいいんだろう」そういうことを考えているうちに返せなくなってしまうことがあります。 今…

家族という役者がそろう小集団~向田邦子ベスト・エッセイ【家族編レビュー】

向田邦子ベスト・エッセイの読書レビューです。全50編のうち「家族」の章10作品を振り返りながら感想を話していきます。

迷えるわれらの希望の光ー光浦靖子「50歳になりまして」レビュー

光浦靖子著「50歳になりまして」を、今日もまた読んでいます。 私たちはスタート地点が違うだけで、みんな等しく老いていく。せっかく歩むなら、こんな風に…著者の言葉を借りるなら「ひん曲がったなりにナチュラルに」生きたいです。 50歳になりまして (文春…

【2025年7月第4週】ある日の読書記録~バドティーズと遠藤周作、2人の大先生と夏を過ごす~

今週は3連休だったこともあり、お休み気分で遊んだ1週間でした。普通に仕事してるけど、このまま8月末まで夏休みモードで過ごすことにしました。やってること同じでも、気持ちをオフするとなんだか楽で驚いています。 今週読んだのは3冊。 「バドティーズ…

今、ここにいることの意味ー遠藤周作「ヘチマくん」感想

遠藤周作「ヘチマくん」を読んだ。純文学、エッセイは数冊読んでいたものの、ユーモア小説は初めてだった。 ヘチマくん (P+D BOOKS) 作者:遠藤 周作 小学館 Amazon ユーモア小説とは、軽快なタッチで描かれた、上品なおかしみがある小説のことを指すらしい。…

火星人に揺さぶられても無感動だった私たちへー阿部公房「人間そっくり」感想

ひたすら意味が分からなそうなものが読みたいと、阿部公房「人間そっくり」を読んだ。希望は叶ったものの、最終的な読後感は「ギリギリどうでもいい」だった。 人間そっくり(新潮文庫) 作者:安部公房 新潮社 Amazon 気になってレビューサイトを見ると賛辞…

「どうしようとも俺である」西村賢太著・苦役列車を読んで思うこと

道路の側溝の蓋をはずして、底に沈むヘドロを小鍋に一杯。それを自らの内臓に入れてくつくつと煮込んでいるような1週間でした。 もはや、どうにかしたいとも思わない。こんな時のためにジョーカー要素で待機させていた「苦役列車」に手を伸ばす日が来ました…

草森紳一「本が崩れる」感想~本に埋もれて、一本気に生きる~

よく行く古本屋があって、そこの店主とお客さんとの会話を聞くのが楽しみの一つになっています。(盗み聞き…ではなく!コンパクトな店なので自然に聞こえてしまうやつです) ある日、「本がありすぎて風呂場に閉じ込められた人のエッセイ」の話で盛り上がっ…

私たちは何も見えてはいないージョゼ・サラマーゴ「白の闇」感想・レビュー

ジョゼ・サラマーゴの「白の闇」を1週間かけて読んだ。 突然目の前が真っ白になり、失明する。一人の男から始まった謎の病は加速度的に蔓延し、世界が混乱に包まれる様子が描かれる。 白の闇 (河出文庫) 作者:ジョゼ・サラマーゴ 河出書房新社 Amazon 邦題は…

読書への後ろめたさと敬意―児島青「本なら売るほど」1巻感想・レビュー

児島青の漫画「本なら売るほど」を読みました。最近いろんな書店で平積みされていて、SNSでもよく見かけるので気になって手に取りました。 本なら売るほど 1 (HARTA COMIX) 作者:児島 青 KADOKAWA Amazon 古本屋店主の日常や、その周辺に住む人々の本にまつ…

世にも奇妙な数秘の世界(マカレン占いに行き、著作を読んだ話)

後で説明しますが、今日は諸事情あって占いの話をします。 占いを信じているかと言われると微妙なところです。どちらの道も間違っていない場合のアドバイスや、悩める誰かを癒すセラピー的要素としては悪くないなと思っています。 そんな私が横浜中華街のマ…

視覚的文章の妙―野見山曉治「四百字のデッサン」の感想に満たない何か

「どんな本が好きですか?」「おすすめの本とかありますか?」 気軽に投げかけるくせに、言われると一番困る言葉です。(なんならかわして言わなかったりする)でも、この本があるのでもう大丈夫です。 そのくらいに文章の味わい深さにうっとりしましたし、…

「日常不足」を感じて、日常に気がつく(よつばと!16巻を読んで)

先日友人に本を貸した。そしたら「よつばと!」16巻を貸してくれたので読んだ。 全然読んでいない人にいきなり16巻を貸すのはどうかと思うけど、読むほうも読むほうだよなあ。 よつばと!(16) (電撃コミックス) 作者:あずま きよひこ KADOKAWA Amazon 友人は…

叔母を思い、迷いながら書く感想ー「二十四五」を読んで

今日は「二十四五」を読んだ話をしていきます。亡くなってしまった叔母と、主人公にまつわる物語。「十七八より」「未熟な同感者」「最高の任務」に続く4作目で、大人になった主人公が弟の結婚式に参列するため仙台に向かうところからはじまります。 二十四…

春の服選びを考える 〜「フランス人は10着しか服を持たない」を読んで〜

10年以上前に流行った本『フランス人は10着しか服を持たない(ジェニファー・L・スコット著)』を今更読みました。読むことはないだろうと思っていた本を読んだきっかけは、家族からの「あなたはこの本を体現してるけどなんか違う!一回確認したほうがいい」…

言葉とともに失われるものーいがらしみきお「誰でもないところからの眺め」を読んで

日々、なんとかやれてます、問題ないです。ただ、なんとなく、いつまでもつかなぁとは思います。 そんな気持ちを考える手がかりが、いがらしみきお「誰でもないところからの眺め」にはあるのかもしれない。 「人間やめますか?それとも生き物やめますか?」…

2つの世界の境界線に立つー宮沢賢治「サガレンと8月」を読んで

読書感想をまとめてはここに載せ、石を積むように書く日々です。積めば積むほどに、なんだか自分が鮮明に、確かなものになっていく感覚がありました。それが今週、なくなりました。 宮沢賢治「サガレンと8月」は、個人的には危ない本です。前後不覚、五里霧…

言葉を探しに行く物語ー「ゲーテはすべてを言った」を読んで

あの人のあの言葉、どこにあったんだっけ。そうやって過去に読んだ本をめくった経験はないでしょうか。わたしは割とよくあって、しかもそれが楽しかったりします。 情景や雰囲気はしっかり覚えているのに、肝心の名前が未だに出てこない本もあったり。多分あ…

10年前、今、10年後の自分を覗き込むー「10年後のハローワーク」を再読しながら

今週のお題「10年前の自分」 10年前。私は20代後半で、仕事のことばかり考えていました。 今の仕事を長く続けられそうにない(平均年齢20代前半、精神・肉体的にもハード) 安心したい(正社員になれば大丈夫だと信じ込んでいた) プロフェッショナルになり…

言いたくて言えなかった人生ーマーク・トゥエイン作品に思うこと

年末年始の長期休暇で心が閉じてしまったのか、言おうとしてやめることが多発しています。 「旅行、楽しかったですか?写真見せてください!」 「芥川賞とれなくて残念でしたよね、もう読みましたか?」 「今日お弁当忘れちゃったんですよね、お昼一緒行きま…

IMON…それは「人間OSアップデート」実践の書

昨年に挑んだいがらしみきお著「IMONを創る」を読み直して、これをまとめて感想を話すのは違うという結論にいたりました。これは著者の理屈であって、わざと人には分からないようにしているものを無理やり分かったようにまとめることには意味がない。人の理…

【後編】いじらしい娘・パリヤと自己受容の物語~森薫・乙嫁語りより~

森薫の漫画「乙嫁語り」には魅力的な人物がたくさん出てきますが、特に思い入れがあるのがパリヤです。前回はパリヤに出会った時と共鳴した部分について話しました。後編の今回は、彼女を見ていくなかで感じた「自己受容」を、漫画のシーンを振り返りつつま…

いじらしい娘・パリヤと自己受容の物語【前編】~森薫・乙嫁語りより~

また乙嫁語りの話です。19世紀の中央アジアが舞台のこの物語。今日はわたしが読むきっかけとなった「パリヤ」について話していきます。読む前も読んだ後も、ふと考えてしまうくらいにはこの子が好きです。 乙嫁語り 8巻 (青騎士コミックス) 作者:森 薫 KADOK…

「書くのがしんどい」わけがない!~編集者・竹村俊助の本で立ち上がる

多少ムキになって言いますが、私は書くのがしんどくないです。むしろ書かないことで言葉にできないモヤモヤがたまるほうがしんどい。 今ちょうど繁忙期で、あくせくしていたら書きたいことが16個ほど溜まってしまいました。昨日は1日休みだったので半分くら…

未来と刺繍に込められた祈り~森薫「乙嫁語り」感想・レビュー

先日「森薫・入江亜季展」に行ってから、二人のマンガを読んでいます。どちらの作品も味わい深く、異国を感じてはうっとりする日々…今日はまず、森薫「乙嫁語り」の魅力を深掘りします。 19世紀後半の中央アジア、一人の乙嫁(おとよめ:美しい花嫁)が嫁い…

旅したいし、こんな風に描いてみたいし。「山とそば」ほしよりこが旅する絵日記

秋~春にかけては湯船につかりながら本を読むのですが、何度も読み返しているのが「山とそば」です。猫村さんで知られるほしよりこが描く旅の絵日記は、自然体で気取ってなくて、こんな旅がしてみたいなあ〜と読むたびに憧れるのでした。 この漠然とした「い…

「私」と事実で紡ぐ物語ーハン・ガン著「すべての、白いものたちの」感想・レビュー

冬になりかけの今、空を見上げて白い息を吐いてみる。来年もきっとこうして、この本を思い出すんだろう。 すべての、白いものたちの (河出文庫) 作者:ハン・ガン 河出書房新社 Amazon 2024年ノーベル文学賞を受賞したハン・ガン(韓江)の「すべての、白いも…