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読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

自分専用「ふっかつのじゅもん」ー俺の歯の話(バレリア・ルイセリ著)レビュー

何が起きても、自ら復活できるのがこの男。世界が、他人が、どんな状況で何が起きようとも。この人間は自分で自分に意味を持ち、立ち上がれる。わたしは誰がなんと言おうと、この物語と、この生き様が、好きだ。

バレリア・ルイセリの「俺の歯の話」。装丁と書き出しに心掴まれて、独特な語りのテンポに惹きこまれて、あっという間に読み終えた。

読んでからもう何ヶ月も経つのに、わたしは今日もサンチェス・サンチェスのことを考えている。

あらすじ

この本には一般の物語と同様、「はじまり」があって、「なか」があって、「おしまい」に至る。

主人公はグスタボ・サンチェス・サンチェス。またの名をハイウェイと言って、職業は競売人だ。競売の語り口にはいろんなものがあって、「循環論法」「省略法」「比喩法」など、会場の雰囲気や品物によってアプローチを変え挑んでいく。彼の手にかかれば、どんなモノにも価値を与えることができる。

これはそんな男の「歯」と、モノの変わりやすい価値についての物語。

不屈の男、サンチェス・サンチェス

物語はサンチェス・サンチェスの視点で描かれていく。彼の思考の積み上げ方はかなり独特で、その様子を見ているだけでもだいぶ楽しい。でも、ただの異端な人ってわけじゃない。それをこの文章に感じる。

自己憐憫に浸っていた時期に、新聞を隅々まで読む癖をつけていた。他人の不幸や他人の幸運が、いつも俺自身のそれに対する客観的な視点を与えてくれた。

バレリア・ルイセリ著「俺の歯の話」より引用

彼には実際、数々の苦難と難題が降りかかるのだが、ものともしない。いや、多分実際にはだいぶダメージをくらってる。しかしそんな状況を相手にしないのだ。

見えてるけど、その部分にわざわざ浸らない。別の角度から見て、どうやったら進めるかを探す努力ができる人なんだ。思った時には、もうこの人の虜になっていた。

自分専用「ふっかつのじゅもん

まっさらになったり、失ったり、ファンシウール(ここ一番好き)になったりしても這い上がる方法。それを「ふっかつのじゅもん」と勝手に言うことにする。復活するのは本当だから、大丈夫だと思う。

サンチェス・サンチェスのふっかつのじゅもんはこうだ。

俺の名はハイウェイ、世界一の競売人だ。ラムを二杯飲めばジャニス・ジョプリンの物真似ができる。クリストファー・コロンブスの有名な逸話みたいに卵をテーブルの上にまっすぐ立てられる。チャイニーズ・フォーチュン・クッキーの意味を読み解ける。日本語で八まで数えられる。イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク、シチ、ハチ。仰向けになって水に浮かぶことができる。

バレリア・ルイセリ著「俺の歯の話」より引用

是非、口ずさんでほしい。わたしは10回以上はこれを読んで口にしてみたけど、自分はできもしないのに、なんだか力が湧いてくる。わたしだけだろうか?そんなことないと思う。

多分なんだけど、これは他人にとってはくだらないことで一向に構わない。むしろくだらなければくだらないほどに、効力が増す。

そして、自分は○○だ。…できる。…できる。…できる。と唱えることで、なんか不思議とふつふつと湧いてくるものが、ないだろうか?わたしだけか?

わたしの「ふっかつのじゅもん

いま構想していることを進めるために、わたしは是非ともこの「ふっかつのじゅもん」がほしい。これがいつまでも出てこなくて、ずっと記事をアップできなかった。多分これ以上待ってても降りてこないので、今日無理やりつくってみようと思う。

  • 起きて15分で弁当が作れる、あまい卵焼きもつくれる
  • 寿限無を暗唱しながら高速でタイピングできる
  • 目を瞑れば5分以内に眠れる

うーーーーん全然違う、、なんか早さに関するものばかりだな…なんかこう、ちょっとクスッとくるようなのが欲しいんだけど。ユーモアが足らない。チャイニーズ・フォーチュン・クッキーの意味が読み解けるのは本当にすごいスキルだなあ。

あとは、サンチェスみたいに小気味よく名乗りから始めたいのだけど、自分の名前が決まっていないのでまだできない。(いまの「ロア」は好きなゲームの地名、わたしはいつもその街でブログを書いている、設定)これもそろそろ決めたいなぁ〜とうとう一年以上、とりあえずの名前でやってきてしまった。意外とそういうもんだよなあ。

ふっかつのじゅもん」は名乗り向上?うたい文句?キャッチコピー?いずれにしても、自分を形成するための大切な文句だ。名前の選定とともに、じっくり案出ししていこう。

意味と価値を吹き込む意義

サンチェスの置かれている「位置(立場)」は、読み進めていくうちになんとなくわかっていく。そして大事なのは「位置」じゃなくて、「意味」と「価値」だと感じてくる。

冒頭でも少し紹介したけど、意味と価値を見出す技術は本の中で紹介していて、ユシミート・メソッドという。全部で4つあって、「循環論法」「省略法」「比喩法」「誇張法」。古典修辞学と数学理論をかけあわせたもので、実際にそれぞれの論法を使って話が進められていく。

すごく面白いんだけど、離心率が重要なキーワードで、数学と物理をさっぱり忘れているわたしにはまだ上手く言葉にできない。どうしても話したいので、このメソッドについてはまたあらためてアップする(宿題、1つ増える)

この本を読むと、意味を見出すってことが、ものすごく大事なことに感じる。きっとサンチェスも競売術を習うなかで重要性に気がついて、自分専用の呪文をつくったのだと思う。

俺の名はハイウェイ。世界一の競売人だ。ラムを二杯飲めばジャニス・ジョプリンの物真似ができる。クリストファー・コロンブスの有名な逸話みたいに、卵をテーブルの上にまっすぐ立てられる。チャイニーズ・フォーチュン・クッキーの意味を読み解ける。日本語で八まで数えられる。イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク、シチ、ハチ。仰向けになって水に浮かぶことができる。

バレリア・ルイセリ著「俺の歯の話」より引用

大事なことなので何度でも言おう。
何が起きても、何と言われようとも、彼はこの言葉で立ち上がれる。

主人公の呼び名について。作中では基本ハイウェイ呼びなんだけど、わたしは読み始めたときからサンチェス・サンチェスという名前に惹かれてしまい、感想ではそっちで呼んでいる。愛称で呼べず申し訳ない。

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