ずっと家にある本だけど、わたしは買った記憶がない。家族に聞いても買っていないという。わたしの本棚にはたまにそういうことがある。
山田ズーニー著『あなたの話はなぜ「通じない」のか』を読んだ。著者については、ほぼ日のサイトで小論文のことを書いている人、というくらいの理解だった。
この本は、いわゆるコミュニケーション術の本ということになりそうだけど、わたしにとっては文章術…というか、文章を書くうえで大切な根っこの部分が詰まった本に感じた。
プロローグに、本の内容が簡単に説明されている。10ページ足らずの文章だけど、どうもそこにすべてがある。この内容を忘れたくないので、自分のメモとともに書き残しておく。
想いが通じるための5つの架け橋
プロローグの題は「想いが通じる5つの基礎」。これから1冊を通してどんなことを話していくかを、かいつまんで説明してくれる。忙しい人はここだけ読んでも十分に得るものがある。わたしなりの解釈と共に紹介していこう。
①自分のメディア力を上げる
何を言うかより、誰が言うかで伝わるものが変わる。同じ新聞という媒体で同じ言葉を載せても、日経新聞と東スポでは伝わる質が変わってくるというところはなるほどなと思った。
以前、友人の子育ての悩みをずっと聞いていたことがある。一生懸命に聞いて、その時々でアドバイス的なものを返していた。後日、その子がスッキリした顔で「すごく有益なアドバイスをもらった!」と話を聞いた時は驚いた。
同じ子持ちの知り合いから聞いたというその話が、自分が言っていた内容とほぼ同じだったのだ。
残念だけど、これがメディア力というやつだと思う。友人が悪かったのではない。経験した量、境遇の共通点などを鑑みて、相手が納得感を得るような話し方ができなかった、ただそれだけだ。あの時の気持ちにようやく区切りがついた気がした。
②相手にとっての意味を考える
わたしが書いたことで、誰かが傷つく可能性がある。心地よくなる人もいれば、いらだって怒り出す人もいるかもしれない。
常々気をつけているけれど、これは避けようのないことで、でも配慮しながら書くことは諦めないでいきたい。
ところで、大切なのは「どんな人に向けて、何を感じてほしいか」なんだろうか?
こういうことを考えると、何が書きたいのかわからなくなってしまう。
わたしが感じたことを、感じるままに伝えたい。見えた景色を共有したい。いつもただそれだけなのだと思うのだけど…。相手のことを考えると急に見えなくなってしまう。難しい。
③自分が一番言いたいことをはっきりさせる
「いまさら言われなくても、言いたいことくらい、自分でわかっているよ」と言われそうだが、そうだろうか?
山田ズーニー著『あなたの話はなぜ「通じない」のか』より引用
この言葉に、ハッとした。急に自信がなくなってくる。続けて、
では、自分の中のモヤモヤと言葉にならない想いを、どうやってはっきりさせたらいいのだろう? 実はそれが、「考える」という行為なのだ。
山田ズーニー著『あなたの話はなぜ「通じない」のか』より引用
ここまで読んで、安心した。常日頃から、わたしが書いている理由はこれだから大丈夫だ。と思いつつ、「考える」をやり切った先の文章であるべきでは?とも思う。
いつも書いているレビューは、わたしが感じたモヤモヤした感情を、少し見やすく整えた思考のかたまりのようなものだ。
考えながら書いている時も結構ある。けれど、しかるべきところでは、考えて考えた先の濃厚な一滴を文章にすることが必要になる。
…なーんて、しかるべきところがないわたしは、まだここまで考えなくていいさ!ここは前段階のイメージとして受け取ろう。
物事には順番というものがある。いまは考えをかたちにすることを楽しむ。考えた先にどうしたいかは、その時考えよう。
④意見の理由を説明する
いまわたしが一番悩んでいるとすればここだろう。いつまでたっても、論理的な文章が書けない。前にchatGPTに自分の文章をいくつか読んでもらったことがあって、その時はとにかく一番にいつも「論理の欠如」をあげてきた。むかついてそれきり聞いていないけど、今のわたしはどうだろう。
この本では、意見の理由を説明することを、「自分と相手の間に橋をかける」という言い方で表現している。論理はわからないけど、橋をかける、ならわかる気がする。
あなたに橋を渡すように書きたい。そうすれば、気持ちを浴びせるだけじゃなくて、もう少していねいに書けそうな気がしてくる。
⑤自分の根っこの想いにうそをつかない
最後に話すのがこれっていうところが、いいんだよなあ。どんなにいい文章が書けたとしても、「本当にそう思ってる?」の問いを忘れず持ちたい。
小手先でうまくやったってだめなんだ。その場は取り繕えても、本物の関係は紡げない。人を、自分を、侮ってはいけない。そういうのは見透かされるし、何より自分が見ている。
人間×人間で通じるための指南書
この本でいう「通じる」とは、とってつけた上手なコミュニケーションではなくて、自分のありのままで相手とやり取りすることを意味する。
自分らしさを残すというか…わたしはこう思う。あなたはどう?みたいな、自分の柱を持ったうえで、向き合うようなイメージだ。
そのためには、さっき言った5つの要素が大切になってくる。一つ一つの要素に対して「問い」と「答え」を繰り返すことで、いい文章になっていくのだと感じた。
目上の人だって、失敗しちゃいけないような場面だって、最終的には人間×人間になる。そういうことを、例え話を交えつつわかりやすく、真摯に教えてくれているのだと思う。
文章を書くことも根本では同じ
書いた文章を読み返しながら、わたしの話は通じているだろうか…と思うことが割とよくある。書いているうちに熱くなって、気がつくと熱しか伝わらない文章になりがちだ。
一番怖いのは誤解されたり、曲がった見方をされること。見えている世界、感じ取ったものを、相手が分かるように書くことができたらこんなに嬉しいことはない。
書いている時はたった一人だけど、文章は誰かが読むためのものだ。書いた自分と読む誰か*1のコミュニケーションだ。
一通り読んだ後、プロローグに戻って何度も読んだ。しかし、まだ身体に沁みこんでくる感じがしない。まずはこの5つの基礎を叩き込み、実践しながら各章を再読していくのが良さそうだ。
思いがけず、いい本に出会った。誰が買ったのかわからないこの本に感謝している。
装丁は、南伸坊!この絵、好きだなあ。各章に散りばめられている。この本の、率直に、真摯に伝えようとしているイメージがしっかり伝わってくる。
*1:「読む誰か」には、自分も含めるというのがいちばんのお気に入りだったりもする。わたしは、わたしのためにも書いている。