BOOKS:LIMELIGHT

読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

SFメルヘン「いさましいちびのトースター(トマス・M・ディッシュ)」レビュー

トマス・M・ディッシュの「いさましいちびのトースター」を読んだ。

本作は、ローカス賞・英国SF協会賞・日本では星雲賞海外短編賞を受賞した、すごい子供向け作品。著者の他の作品を読んだことがないのだけど、SFやミステリーなどでかなり有名な人らしい。「SFメルヘン」という相反する言葉の響きと、可愛らしいイラストに惹かれて手に取った。

SFメルヘン…??こういうジャンルがあるのかな

読んでみると、5つの電化製品が旅をするという突飛な設定もすんなり受け入れてしまう魅力がある作品だった。詳しく説明する。

あらすじ

「だんなさまが帰ってこない…」

2年半放置された夏別荘の電気器具たちは心配している。

ちびのトースターは、帰って来ないなら、会いに行けばいいと考えた。だんなさまにもう一度会うために、他の電気器具に相談して旅に出ることにする。

旅する5つの電気器具

主人公のトースターをはじめ、旅を共にするのはみんな電気器具だ。それぞれのスペックや性格を紹介する。

  • ちびのトースター
    食パンが2枚入って、焼き上がったら飛び出すタイプのシンプルなトースター。5つの電気器具の中で一番若い。性格は勇敢で、挫けない心を持つ。サンビーム社製。
  • 掃除機
    海外メーカー・フーバー社製の掃除機。型が古く、ゴミ袋が外付けの独特な形をしている。最年長だからかちょっと堅物だけど、行動力があるみんなのリーダー。
  • ラジオ
    AMしか聞けない(たまにそれを悔しがる)。時間に細かい。スピーカーから代弁をしてくれたり、雰囲気を放送している曲で表してくれたりもする。割と社交的。
  • 電気毛布
    昔は陽気で明るかったけど、最近ではすっかり落ち込んでいる。劣化や需要をなくすの恐怖からか、不安定な姿が目立つ。
    自分の気持ちに正直な黄色の毛布。
  • 卓上電気スタンド
    首が自在に動くタイプの卓上電気スタンド(テンソル社製)。
    常識人枠で、性格は控えめだけどここぞという時にみんなを照らしてくれる存在。
元ネタはグリム童話

訳者・浅倉久志のあとがきによれば、元ネタは、グリム童話「勇ましいチビの仕立て屋」。読んだことがないけど、Wikiで調べたら主人公のトースターの性格はここからきているな、と思った。「ブレーメンの音楽隊」も入ってるとあり、それは納得。終盤の困難への対処はもろそんな雰囲気だった。

自然の中にいる“不自然さ”

電気器具たちは、知恵を絞り外の世界に繰り出す。主人に会うには森を抜けねばならず、雨風にさらされながら進む姿は健気だ。

読み進めるうち、徐々に電化製品が自然の中にいることの“不自然さ”を味わう。次第に錆びてきたり、劣化していく様を見て「ここにいてはダメになる」「適材適所」など、種族の違いというかどうにも超えられない壁を感じることが多くあった。

それでも、森の動物たちとの触れ合いを見ていると、ただ夏別荘にいるのでは決して会えなかった偶然の出会いの貴重さを感じたりもした。

なぜか電気器具たちに感情移入

自分たちはいらなくなったのだろうか?疑心暗鬼になりながらも後戻りはできず、前に進んでいく。ちびのトースターは、他の電気器具を励ましたり鼓舞したり、最後まで希望を捨てない。

トースターは自分自身に満足していました。四枚の食パンをいちどに焼けるトースターがあることも、雑誌の広告で知ってはいましたが、(中略)トーストに関するかぎり、大切なのは量じゃなくて質だーーそれがこのトースターの信念でした。
トーマス・M・ディッシュ著「いさましいちびのトースター」より引用(P.12)

はじめのほうにあったこの自己認識を思い出す。トースターは自分自身に満足しているから強いのかなぁ。心に柱が通っているからだろうか。

わたしは前職がコロナ離職だったこともあってか、次第にこの電気器具たちに感情移入して、どうか幸せになってほしいと願っていた。

まだまだ使えるはずなのに、いらないと言われるのは思いのほかしんどい。とはいえ彼らは目的を持って生み出されたものたちなので、役割や取り柄が明確になっている。できること、できないことを含めて、協力して進んでいく。

諦めずに頑張る彼らを見て、あの時のわたしはどうだったのだろう、と考えずにはいられなかった。(まあ、今では転職して良かった~!と胸張って言えるけど)

結末はほろ苦の甘さでいい感じ

だんなさまに再会するのかどうか、ずっと気になっていた。2年半も放置されているんだもの、なんとなく嫌な予感がよぎる。会ってもういらないと面と向かって言われたら…それこそどうしよう。

読後は、少しの切なさとじんわり広がる甘みですごくいい感じ。こういう物語、好きだなぁ。

続編も読みたいし、他の作品も読んでみたい

この本には続編があって、なんと次は火星に行くらしい(どういうこと!)

SFメルヘンの定義がよくわからなかったけど、次は確実に感じることができるだろう。著者のトーマス・M・ディッシュは作品の幅が広く、SF作品のほかにゴシック小説や詩・戯曲なども書いていたとある。
特に気になったのは、短編集の「アジアの岸辺」で、国書刊行会の「未来の文学」シリーズの一つとして出ているみたいだ。

また好きな人を見つけちゃったなあ。次に手に取るのはどの本になるのか、楽しみだ。

かわいかったので描いてみた。続編も楽しみにしてるよー!