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読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

親に愛されない、自分も愛せない哀しみールナアル著「にんじん」レビュー

1日1区切りずつ、にんじんと孫子を読む謎の取り組み「1にんじんと1孫子が終わった。

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今日はにんじんの感想を話していくんけど、とにかくヘビーだった…一見穏やかそうな挿絵に目が止まってこうして読んでみたわけだけど、途中何度もしんどくて立ち止まった。

親に愛されない、自分も親を愛せない哀しみ。にんじんの境遇を思うと胸が苦しい。そして、こういう家庭は確実にあると思わせる何かが、この本にはある。

あらすじ

「にんじん」という言葉は、根性が曲がった人間という意味を示す。母親から家族から、そう呼ばれる少年の物語。

母親は日常的に、言葉巧みに「にんじん」を追い詰める。彼はその日々を半ば諦め、なんとか受け流しながら生活している。

親に愛されない、自分も愛せない哀しみ

にんじんの辛さは計り知れない。ただ、辛さのなかにもいろんな種類があることをこの本で知った。

母親からの陰湿な嫌がらせ、言葉の暴力、時には手もあげる。底意地の悪いやり口は、思い出しただけで嫌な気持ちがべったり張り付くようなムカムカする気持ちになる。家族も家族で同罪だ。あんな目にあっているのに見て見ぬふり、ときには同調までする。

しかし何より辛いのは、親から愛されない、そして自分も親を愛せない、少年の心の葛藤にあると思う。

なぜ、こんな目に遭わなければいけないのか。本当は、当たり前のように家族を愛したいし、愛されたい。そんな健気な気持ちが中盤頃からにじみ出てきて、涙をこらえる瞬間が多くなっていった。

最後まで本当の名がわからないにんじん少年

以前の中間レビューでにんじんの名前が知りたいと話していたけど、とうとう分からずしまいだった。後書きを読むと…そうかぁ。これは自伝なのか。。

この現実に、今まで読んだ内容が急に鮮明に、重くのしかかる。はぁ……妙なリアルさがあるのは、そういうことだったか……

でも、辛いだけではないんだよな、この話。終盤にかけて、にんじんの素晴らしい一面も見える。にんじんには、胆力がある。立ち向かう気力が湧いたその時、動けた。それも、暴力に訴えかけるようなものでなく、理性的に動けたことがわたしは嬉しかった。

訴えた先の父親は、残念だけど直接的に何かしてくれたわけではなさそうだった。でも、共犯めいた気持ちの共有ができたのは、にんじんにとって大きな心の支えになったのではないかと思う。

こういう環境は、確実にあるという認識をもつこと

にんじんの哀しみ・苦しみ・葛藤が凝縮したこの一冊で得たこと、それは「こういう環境が、確実に、ある」という認識を得たことだった。

個人的には、どんなフィクションも現実に存在すると考えているところがある。実際にこの物語は存在した話なのだけど。家庭だけでなく、職場、部活、サークル、人が交わる限り、この惨たらしい出来事は起こる可能性は十分にあると思う。

教師や、養護関係の仕事をしている人は、常にこのような家庭があることを前提に接しているのだろうか…?考えただけで、とても抱えきれない重圧を感じる。

どう接したらいいか、分からない。自分がにんじんのような苦しい状況だったら…そう思うと、特別扱いより普通に接してほしいと思うかもしれない。普通ってなんなのかも、難しいところだけど。

この作品が扱っているテーマはとても難しく、でもとても大事なことだと思う。まず、これは「実際にありえる話」なのだと認識すること。そのうえで、繰り返し考えて、時には議論していくこと。そういうことが大切なのではないかと思った。

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感想書きながら読み返してて知ったのだけど、これ、「戯曲」なの……??こういうお芝居が、あるの……??演じている姿をみたらよけい感情がぐちゃぐちゃになりそう。。辛すぎて調べる気にもならない……