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読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

強くて脆い、ダイヤモンドの輝き【宝石の国レビュー・2】

今日も宝石の国の話。最も思い入れがある、ダイヤモンドの話をしていく。

目の前にいる「最強」のそばで埋もれること。湧きおこる複雑な感情を乗りこなそうと足掻き続ける、ダイヤモンドの生き様を振り返る。

ダイヤの生きる力強さを感じたら、なんかもう手当たり次第にやってみようか…!という気持ちになってくる。

「最強」と組む辛さ

宝石の国には、月人(つきじん)を追い払い、連れ去られた仲間を救出する仕事がある。いろいろある仕事の中でも花形の職業だ。

この仕事は2人1組でやる。今日話すダイヤモンド(以下、ダイヤ)は、この国で最も強いボルツとペアで働いている。

宝石の強さには、「硬度」と「靱(じん)性」という2種類の基準がある。ダイヤモンド属はみな硬度が高いのだけど、ダイヤは靱性が低くタフさがない。一箇所に攻撃を受け続けると、壊れてしまう。同属のボルツはタフさも持ち合わせているため、名実ともに「最強」ということになる。

ダイヤだって、そのままでも十分強いし、何より美しい。でもボルツという最強の存在があることで、ねじれた思いを抱えながら生きている。

宝石には寿命がないため、ねじれた思いは永遠に続いていくのが辛いところだ。強くなりたい、ボルツのように、ボルツのように。そう思い込み続けるダイアモンドは、時に戦い方を大胆に変えたり、考え方をあらためたりするけど、うまくいかない。

この気持ちに名前をつけて

そんななか、博物誌の編さんを任された主人公のフォスに話すシーンがなによりも心に残っている。

この気持ちに名前をつけて

市川春子著「宝石の国」より引用

名もない植物に名前をつけるように、この感情に名前をつけてほしい。だって、名前がわかれば少しは安心できるでしょう?

そんな風なことを、歌うように、本当に軽やかに言うのだけど、この言葉には湧き出る苦しくて醜い感情を反芻し続けた先のいろんな思いが込められているように感じる。

嫉妬、羨望、憧れ、憎悪、妬み、いろんな感情が渦巻いて、これだという名前はいまだ思いつけないでいる。というか、一言でいうなんて到底できないだろう複雑な感情だと思う。(是非、アニメでも見てほしい。アニメだとすごく印象的なシーンになっている。)

試して、試して、新境地へ

そんなダイヤの、私が最高に好きな部分は、具体的に何かしようとする気持ちが強いところ。

もちろん頭の中で具合が悪くなるくらい考え続けていた時期もあるだろう。でも、彼には最終的にいつも行動があるのがいい。それも一見何にも考えてないくらいのびやかで、でも内面はドロッドロしたものを抱えているのがいい。(というか、宝石たちはみんなこういうところがあるのが、この作品のすごく好きなところなのかもしれない)

色々試したけど 変われなった

市川春子著「宝石の国」より引用

そう言う彼は、新天地に向かう。そして新たな"自己表現のかたち"を身につける。意外でちょっと笑っちゃったけど、持ち前の美しさと輝きが引き立つぴったりの表現方法だった。

そんな彼を見て、もっと好きになったし、応援したくなった。のびやかなところはそのままに、あー、新しく生きていくんだなと思った。しかしその矢先に転調が訪れる。

ボルツとの対峙

久しぶりに会ったボルツは変わっていた。昔、ともに一番大事にしていたものは、もう全然大事じゃない。そこにダイヤが真正面から文句を言う。

「はあ~~~~~?!!」

こういう正直なところが本当に好きだ!文句が言えるようになったのは、彼にもしっかりとした基盤ができたからだと思う。

ダイヤとボルツの決着は、すごく二人らしい関係性を感じた。

みんな変わっていく、そうでしょ?

市川春子著「宝石の国」より引用

二人の関係性は時を経て変わった。でも、変わらない思いや確執はある。そんな気持ちはぶつけて、ぶつかっていく。最後のダイヤの表情、何もかもかなぐり捨てた"生"を感じた。私はやっぱり、彼が大好きだなあ。

強くて脆い、ダイヤモンドの輝き

感情を乗りこなしているようで、全然割り切れてない。そんな気持ちも全部ひっくるめて、軽やかに煌めいて生きる。彼にはそんな力強さがある。

これがみんなが憧れる宝石・ダイアモンドの強い生き方ってことなのかな。かっこいいな。憧れている。

「遠くにいるボルツは大事に見える」…薄く笑ってそう伝えるダイヤは、自分の気持ちに素直だ。

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