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読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

【宝石の国・読了】変わっていくなかに変わらないものをもつこと

宝石の国、全108話読み終えた。

こんなに変わっていく主人公を見たことがない。変化は良いことなのか、悪いことなのか。1週間考え続けたけど、分からない。分かるはずもないか。いまもこうして、みんな少しずつ変わっている最中なんだから。

ずっと反芻し続けて、何とかかみ砕けないかやってみたけど、分かった気になるばかりで難しい。今の段階の理解ということで感想を話していく。ネタバレする。

ざっくりとあらすじ

宝石として生きる自分たちには、終わりのない命と輝きがある。そんな私たちを装飾品にしようと、月人(つきじん)は日常的に襲ってくる。立ち向かうため、奪われた仲間を取り戻すために戦い、傷ついたものには医療を施し、また戦う。そうして今日も生きている。

主人公・フォスフォフィライトの性格と成長

主人公のフォスフォフィライト(以下、フォス)は、宝石としての硬度が低い。ちょっとした衝撃ですぐ壊れてしまうため、戦いには不向きな宝石だ。不器用で注意力散漫、口だけは達者。そんな彼には、他に任せられる仕事もない。

しかし、物語の途中でアゲート(貝類)や金など、いろんな素材が混じっていくことでフォスは変化していく。できることが増え、戦いにも出られるようになる。徐々に仲間から頼られるようになり、それが成長のようにも感じられるが…

フォスの葛藤と変化

できることが増え、視野が広がったことで自分の親のような存在・金剛(こんごう)への猜疑心、月人への興味が表れ始める。

色んな要素が混じっても自我を保ち続けていたフォスだけど、真実にたどり着いてからの行動には、フォスの成分はどのくらい入っていたのだろう。

仕事を任せてほしい/強くなりたい/認めてほしい
から
みんなのために/失ったものを取り戻すために/"宝石"を守るために
へ。

もとから?そうだった?もう分からない。

影響を受けて変わっていくことの脆さ 

宝石としてもろ過ぎたフォスは、他の成分と共生・共存することで生き延びてきた。それは"影響を受ける"という事でもある。

他の宝石たちと、月人と話すなかでも、とにかくフォスは流されやすい。だからこそ、揺るがない信念をもつシンシャ・アンターク・カンゴームに特別な思いがあったのかもしれない。

ーー彼はもっと強くなりたかったし、認められたかったし、必要とされたかった。そのためには文字通りなんでもしたし、必要な犠牲は払った。それで得たものがこれだったことに、胸が苦しくなる。

どこで間違った?ーーそう思うけど、さかのぼって読んでみても、どれも、好奇心が強く純粋な気持ちをもつフォスらしい選択だったのではないかと思う。

振り返ると、他の宝石たちはいつもフォスの身を案じ、時に諭し、引き返すように説得するものもいた。それでも止まらなかった。

これが、フォスが獲得した"人間性"ということなのか。

物語のテーマに思うこと

フォスは、自分の望みに気がつく。でももう、何もかもが終わったあとだ。

自身の望みの正体は知ろうともしなかった
満たされるはずがない

市川春子著「宝石の国」より引用

多くを手に入れた人の物語を読むことがあるけど、フォスと似た孤独を抱えているような気がする。

私は、今も昔も足りないものが多すぎて、それを得るために奔走する日々だ。全て手に入れた先に何が残るのかなんて考えてもいない。渇望の日々で終われるならまだましで、仮に全て思った通りになってしまったら?その先に何もなかったら?

この作品を通して、自分の「真の望み」を知ることの大切さを、突きつけられるように教わったのだと思う。

最後の転調について、今の自分の解釈

フォスは、またフォスフォフィライトとして生きる。"宝石の国"は美しい。割れても、それもまたいいねといってくれる新たな世界だ。

歴史は繰り返すことはわかっていても、ほんの一瞬のあいだ、彼が彼のままで満たされる時間が確かに存在したというこの描写が、作者の主人公に対する労いだったように感じた。

すべては変わっていく そうでしょ?

市川春子著「宝石の国」より引用

変わっていくなかに変わらないものをもつこと。本当に難しい。

この物語は、もっともっと遠くから俯瞰して読む必要がある。でも、宝石の輝きに目を奪われてしまうように、一人ひとりの宝石たちの考え方や生き様に心動かされて思うようにいかない。

わたしもこれからまたどんどん変わる。ずっと後になって再読した時、もっと深いところでこの物語を感じ取りたいと強く願う。

私は、金剛が初めて与えてくれた仕事、博物誌の編さんをするフォスも見てみたかったよ。思えばそこに惹かれて読み始めたのだから… 

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