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読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

「私」と事実で紡ぐ物語ーハン・ガン著「すべての、白いものたちの」感想・レビュー

冬になりかけの今、空を見上げて白い息を吐いてみる。来年もきっとこうして、この本を思い出すんだろう。

2024年ノーベル文学賞を受賞したハン・ガン(韓江)の「すべての、白いものたちの」を読み終えた。「私」と事実で紡いだ物語には、彼女の外側(環境)と内側、真実と虚構が入り混じる独自の世界があった。

 

事実というのは残酷な側面があって、どんなに頑張っても変えられないで、ただそこにあるものだ。

見ないふりをしたり、無かったような顔をして生きていても、胸の奥にはひっそりと確かに存在しているものだ。

 

「すべての、白いものたちの」には、そんな事実との対面、実践、受容がある。

 

乗り越えたりするのではない。塗り替えたりするのでもない。この目でしかと見て、自分なりの方法で試し、受け入れる。

 

自分なりの方法とは、事実を「白いものたち」で浮かび上がらせることだ。産着、丸餅、霧、それらすべての白いものたちを通して、託された形のない何かを確かに感じる。短い文章、写真と隙間が余韻となって迫ってくる。

続く展開には独創的な実践があり、これはおそらく、異国で一時を過ごした当時の彼女にしか成せない方法だ。

 

一冊を通して、厳かな儀式を見守るような静けさと、事実を見る苦しさ、虚しさ、そういうものに包まれてはいる。しかし、短く途切れた文章のなかに、ほのかに感じる暖かな心の震えが離れがたい。

 

「私」の事実を表す白い風景には、読者それぞれがもつ記憶と重なる部分があるだろう。

著者のように試してみたいか、試せるのかは分からないけれど、「こういう形がある」という事実に、わたしは確かに救われるものがあった。