BOOKS:LIMELIGHT

読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

「写植時代」の本づくりを覗くー平野甲賀〔装丁〕術 好きな本のかたちーを読んで

「平野甲賀〔装丁〕術好きな本のかたち」を読んだ。フリーのブックデザイナーが一冊の本の装丁を仕上げるまでの様子が日常と共に記されている。

今みたいにPCソフトで編集する前の作り方。「写植」という、文字やイラストを一つひとつ切り貼りして版面を作っていく姿に魅せられた。
編集者とデザインや紙の種類など打ち合わせを重ねながら、平野甲賀独自の「書き文字」にとりかかっていく。

自分の個性みたいなものが透けて見えないようにしたい。(P31)
平野甲賀著「平野甲賀 装丁術ー好きな本のかたち」より引用

強い独自性を持ちながらも、書物やその著者に対して敬意を払う。手癖が出ないように定規を使って文字を作っていく。

「書き文字」を真似して書いてみる。バランスをとるのが難しい、けど面白い…!

3日に1冊、1年に百数冊以上という驚異的なスピードで装丁を手がける。その日々のなかには、どうにもおさまりが悪い時もある。わたしなら真っ先にいろんな資料を見たり参考になりそうな他人の作品を探したりするけど、平野甲賀のアプローチは違う。

いまの姿をまるごとみとめ、自分がおかれた立場をすなおにうけいれる。すると、スッとはまる。はまるべきところに。(P60)
平野甲賀著「平野甲賀 装丁術ー好きな本のかたち」より引用

もちろん、これは熟練のなせる技ということだろう。しかし、思う限りのことはすべて試した、それでもうまくいかない。そんな時には覚悟を決めてやってみようと思えた。

また、著者には分野の違う“同志”がいる。そこには妻も含まれる。同志たる由縁についてこう語っている。

ただ一つ、共通点があるとすれば、生活を全面に押し出してゆくことで、自分の仕事の質を変えようとしてきた連中だということじゃないですか。ぼくはそう考えています。(P104)
平野甲賀著「平野甲賀 装丁術ー好きな本のかたち」より引用

同志たちとは「水牛通信」という小さなパンフレットを作ったり音楽のイベントを行い、お互いに影響をうけあう。休みの日には釣りや陶芸に勤しむ。

生活の質が仕事にも活きる。この時手がけていた本の著者・小野二郎がエッセイの中で言っていたという「趣味の思想化」の言葉も印象的だった。
わたしも趣味は思想に大きな影響を与えると思う。好きなことに取り組んでいる時、自分は生き生きと行動し、より深く考える。考えたことは波紋のように、仕事だけじゃなくいろんな場面に行き渡っていくだろう。

難しいことじゃない。心地よいと思ったものを集めて、見直したりまとめたりして深める。そして、同じように好きな人に出会ったら楽しく話すだけだ。

著者が伸びやかに仕事をする様子を見て、肩の力がまた一つ抜けた。

そして出来上がったのが「小野二郎著作集①ウィリアム・モリス研究」。Amazonには③しかなかったけど、こんな雰囲気の書き文字だ。

いつか生で見てみたい。今度神保町に行ったら探してみよう。

(おまけ)
平野甲賀は、晶文社の「犀(サイ)のマーク」をデザインした人でもあるらしい。家に晶文社の本はあるかな…?と調べてみたら、1冊だけあった。

左下にあるのが、犀(サイ)のマーク

ペーパーバック大全。写植をしたのは前田成明という人だった。この装丁もわくわくしていいな。本を手に取った時、表紙ができるまでのストーリーを想像するのも面白そうだ。