BOOKS:LIMELIGHT

読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

死と葬儀の現実を知るーケイトリン・ドーティ著「煙が目にしみる」レビュー

ケイトリン・ドーティ著「煙が目にしみる」を読んだ。ネトフリアニメ「ミッドナイト・ゴスペル」の世界にのめり込み、物語に出てくる人の本を読んでみたのだった。

葬儀会社を営む著者は、7話「月食のカメたち」のゲストスピーカー。アニメでは、ビジネスの観点でみた「死」の現実と、死に向き合うことで得られるものについて話している。

アニメについては、タロットカードや宗教にまつわる考察をしているhanoさんという方の素晴らしいレビューがあったので、ぜひそちらをおすすめしたい。わたしは本の話をしていこう。

あらすじ

本書の副題は「火葬場が教えてくれたこと」。著者は現在、「アンダーテイキングLA」という葬儀社と、葬儀の改革を望む同志を探すためのWEBサイト「よき死の騎士団」を運営している。

幼い頃から死に囚われた著者は、大学で中世史を学び火葬技師として葬儀社に就職した。以後6年間、さまざまな葬儀業界を体験していく。

経験と思考を繰り返し、自分の考えを具体的な行動に起こしていく軌跡がこの本になっている。

葬儀業界のリアル

一部の個人情報を除きノンフィクションのため、日々どのような遺体と対面し、どのような処置をして火葬するのかをかなり具体的に記してある。たとえばこんな感じ。

  • 遺体
    カビや蜘蛛の巣、腐食、変色など
  • 処置
    エンバーミング(防腐処置、アメリカではメジャー)、遺族に対面させるための化粧などの準備
  • 火葬
    保冷庫から取り出し、手順に沿って火葬する。アメリカでは骨を粉状にするため、粉砕処理まで行う

ここまで聞くとグロテスクで澱んだ空気を感じるかもしれないが、文体にその空気感はない。むしろ不思議な明るさのユーモアに溢れているくらいだ。

あくまでこれは仕事であって、ずっと陰鬱な気持ちで仕事ができないように、ある程度ドライに接する必要がある。

同僚たちにも、会話の端々に努めてそうしているのが感じられる。時折押し寄せる虚しさや やり切れなさを胸に、毅然と仕事をしているのが印象的だった。

ケイトリンの思考と行動

彼女は毎日見る遺体と遺族を前に、今の「死の概念」に疑問をもつ。

死んだらなるべく早く遺体を運び、処置をして、遺族が別れを告げたら土葬か火葬を行う。また、近年は火葬だけする直葬もあり、ネットで完結する手配もできる時代だ。

死者へのアプローチは、この流れ作業的なプロセスで本当にいいのだろうか?そんなはずはない。彼女は歴史を紐解き、それぞれの文化による葬送の仕方を知る。葬儀業界の歩んできた道を洗い出す。

見えてきたのは個々の死に寄り添う葬儀のかたちだ。彼女は死の新たな概念を普及するべく、自分の行動を導いていく。

彼女にはなぜだろう、共鳴するものがあった。時に虚勢を張り、無知を恥じながらも経験して前に進む。まだできることがある。今からでも遅くない。自分を鼓舞しながら進んでいく姿を見ていると、不思議と自分にも力が湧いてくる。

見ていて思うのは、やっぱり世界を変えるのはいつだって行動だということ。1984年生まれで自分とそう歳が変わらない彼女が、迷いながらも行動し続ける姿には尊敬しかなかった。

感想…アルス・モリエンディの必要性

この本は時間をかけて読むと決めていた。著者が葬儀業界で働いた日々を、できるだけ長く追体験するためだ。

しかし正直、この本をわたしにまとめられるのかなあという感じだ。「死」はあまりに漠然としていて、筋道立てて考えを巡らせようとしたこともない。

死について全くと言っていいほど考えてこなかったことに、なんだか情けない気持ちになった。行き当たりばったりに、自分や大切な人に別れを告げようとしていたのか?信じられない。

あなたと、いつかかならず訪れる死との関係は、あなただけのものだ。
ケイトリン・ドーティ著「煙が目にしみる」より引用(p.319)

中世後期に発展した芸術のジャンル「アルス・モリエンディ(往生術)」は、死に対する技術的・実践的な手引き書だったという。

現代に手引きはなく、死への解釈はそれぞれに委ねられている。彼女は自分で書いてみようと、実際に本にも書いてあった。わたしにもできるだろうか。

真実はときに目を背けたくなるようなものではあっても、見て見ぬふりをするより、歩み寄って理解しようと努力するほうが、そこから学べるものは多い。
ケイトリン・ドーティ著「煙が目にしみる」より引用(p.182)

彼女が現実に直面して、葛藤の中から練り上げた思考の塊を使い行動に移していく様子は、勇者となり世界を変えていく様を見ているようだった。しかもそれは現実に存在していて、いまも世界を変えている途中だというからまたすごい。

みな平等に訪れる死に向かって、今日からでもいい、腰を据えて考え、身の回りの人と繰り返し話し、自分のアルス・モリエンディをつくろう。まだもう少し、時間があるはずだ。

(おまけ)友人に何気なくこの本の話をしたら、「ちょうど葬儀の裏側に興味があって」とまさかの返事。今度貸すことになった。どんなちょうどだろう…?とにかく、1人とは確実に深く話せそうで、わたしはうれしい。