森薫の漫画「乙嫁語り」には魅力的な人物がたくさん出てきますが、特に思い入れがあるのがパリヤです。前回はパリヤに出会った時と共鳴した部分について話しました。後編の今回は、彼女を見ていくなかで感じた「自己受容」を、漫画のシーンを振り返りつつまとめていきます。9巻までのネタバレがありますので、気になる方は読んでからどうぞです。
いじらしい娘•パリヤ
パリヤを一言で表すなら、いじらしい娘といったところでしょうか。住んでいる街では早めに結婚して子供をたくさん産むのが女性の望ましい姿、という文化があります。彼女は適齢期ですが、一向に縁談がまとまらず焦っています。
というのも、はっきりとものをいうところや、威圧的な態度が不評だからです。パン作りがとても得意ですが、裁縫や他の雑事には興味が薄いのもコンプレックスになっています。
結婚したい、できないのは私のせい?変わりたいけど変われない、でも結婚はしたい。いつも葛藤の中に生きています。
パリヤと自己受容
乙嫁語りにおけるパリヤのエピソードテーマは「自己受容」だと思っています。性格の難から友達がいなかったパリヤですが、この街に新しくやってきたアミル(物語の主人公)に出会ってから少しずつ変わっていきます。というより、表向きの態度に隠れて見えなかったパリヤのいいところがやっと見えてきたという感じです。
それも、少しずつというのがポイントで。変化を感じていったシーンがいくつかあるので、エピソードごとに振り返ってみます。
アミルの反復質問
「私 よく生意気だって言われるんです」
(中略)
「生意気なんですか?」
「え!?いやっ みんながそう言うってだけで」
(中略)
「生意気だとは思いませんし 気をつけてるなら大丈夫じゃないですか?」
「……そう、そうですね そうだといいです」森薫著「乙嫁語り」より引用(2巻P14)
これはアミルと出会った日、結婚がうまくいかないパリヤについて話したワンシーンです。2人の性格がよく表れているなと今でも思います。
自分が発した言葉が、山びこみたいにかえってくることで、違うと気がつくんです。パリヤはここから、いろんなことを考え直すきっかけをもらったと思います。
(それにしても、何度読んでもアミルってこういうところがすごくいいな!)
刺繍の師匠・バルキルシュ
バルキルシュはアミルの義理の祖母です。トラブルがあってパリヤがアミルの家に居候した際に、バルキルシュに刺繍を教わることになりました。
バルキルシュは迫力のあるおばあちゃんで、「どれ ひとつ仕込んだろかい」とビシバシ教えます。手取り足取りじゃなくて、「魂」を教える感じです。
大切な心構えの部分を教わり、刺繍に向かう姿勢にも変化が出てきました。そしていつしかパリヤの脳内にも師匠として登場するようになります。めちゃくちゃ大切なシーンなんだけどコミカルに描かれているのがまたいいです。
カモーラに教わる伝え方
新たな友人・カモーラは、才色兼備でみんなに好かれる存在です。以前のパリヤは見習おうとする気持ちが空回りしていましたが、今度は素直に、どうしたらカモーラのように人にうまく気持ちを伝えられるのかを聞けました。
「うまく言おうとしなくてもいいんじゃないかな
気持ちの伝え方はいろいろあるし」
森薫著「乙嫁語り」より引用(9巻P27)
この言葉を思い出して自分なりの方法で伝えたシーンが、私が展示会で初めてパリヤを見た原画だったんです。
展示会の時にもいいシーンだなと思っていましたが、漫画を読んで彼女の人となりと成長を追ったあとでは全然受け止める量が違いました。
今でもこのシーンは大好きで、52話「パリヤのパン」だけ何度も読み返してしまいます。これが見たくてまた原画展に行きたいくらいです。
パリヤ、いじらしく前に進め
自分の頑なだった思いを、絡まった紐を解くように一つひとつ見直していく。意外とできない、難しいことです。いろんな人とのちょっとしたやり取りから気づきを得て、一歩踏み出していく姿をみていると励みになります。しかもそこには明確な言葉はなくて、表情で語られているところが本当に良い。
いま、パリヤにはよいご縁が結ばれつつあります。(婚約者のウマルとの話は思い切って割愛しました。読んでもらったほうが絶対いいと思うので!)劣等感を抱え、もがきながらも前に進むパリヤをこれからも応援しています!いじらしく、それでも前に進んで頑張ってね!みんないるから、もう大丈夫だよ。