BOOKS:LIMELIGHT

読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

「さもしい」日々にさよならーシュライエルマッハー「独り思う」を読み返しながら

夏に読んでから、深く心に残っている言葉の話をする。

今これをやっておけば、あとからあれが出来ようなどという、さもしい根性を持つな。自由な精神よ、お前のうちに或るものを他のものに役立てようといったことを恥じるがよい。
シュライエルマッハー「独り思う」P129 より引用

私の行動原理は長らくこれだった。
「今これをやることで、後々に生きてくる」
「先にあんまり興味のないこれをやっておけば、本当にやりたいあのことに役に立つ」
念仏のように唱えて生活してきた。

合理的でいいように見えるが、むやみに遠回りをしていたのではないか。なぜストレートにやりたいことをやらなかったのか。恥ずかしくなった。

「物事には順番というものがある」そういう考えも、あるにはある。しかし、自分の自由な発想でやりたいと思ったものに対して、それを適用しなくてもいいじゃないか。とんでもない勘違いをして長い時間を過ごしてしまった。

「さもしい」という言葉は、身なりなどがみすぼらしいことが語源のようだが、現代では「品性が下劣で卑しい、意地汚い」という意味合いが強い。

この強い言葉を使うことで、冷や水を浴びせてくれた。目が覚めた。

どれもこれも手段であってはならぬのだ。どれもこれも、価値の上では同じではないか。
シュライエルマッハー「独り思う」P129 より引用

本当にそう。目的はなに?ただ好きだから、やってみたいからでいいじゃないか。
そこに段取りやバランスや無意味な動機づけはいらないんだよ。

世間に対しては、世間の権利があることをぼくは認める。対世間的な行動においては、ぼくは秩序と知恵、慎重と節度を得ようと努力しているのだ。
シュライエルマッハー「独り思う」P131より引用

対世間的にはこれまで通り、理性を働かせて生きていく。対自分、内省的な部分では、毅然とこれまでの意識とは決別しよう。

…ただ、「さもしさ」は、かつての若い私が何とか生き延びるために、懸命に編み出した方法でもあった。こうでもしないと、日常の刺激やスピードに対応できなかったのだ。でも、もう大丈夫だ。

「さもしい」日々よ、ありがとう。さよなら。

(「独り思う」はかなり昔の本で絶版になっている。今は別の訳者による「独白」として本が出ている)