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読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

とるにたらないものもの(江國香織著 集英社文庫)

とるにたらないものもの (集英社文庫)

とるにたらないけれど、欠かせないもの。気になるもの。愛おしいもの。忘れられないものーー。輪ゴム、レモンしぼり器、お風呂、子守歌、フレンチトースト、大笑い…etc.。そんな有形無形の身の回りのもの60について、やわらかく、簡潔な言葉でつづられている。行間にひそむ想い、記憶。漂うユーモア。著者の日常と深層がほのみえる、たのしく、味わい深いエッセイ集。

江國香織「とるにたりないものもの」集英社文庫裏表紙の紹介文より引用

お風呂でちまちま読んでました。

普段は話題にも上らないような“ものもの”について、著者の思い出や思い入れをぽつりぽつりと話してくれます。

全部で60あり、1つにつき3ページです。気になって文字数を数えてみたところ、1行34文字×約30行=1020文字。改行もあるのでたぶん900文字くらいでしょうか。1テーマ、たった900文字でこんなに伝えたいイメージを言葉にできるんだ…!と驚きました。

たとえば「傷」は、家の中にできた傷が気になるか、それとも汚れが気になるか、夫婦で意見が食い違う話。生きていれば、傷はつくものなんだから避けようがない。汚れは消せるのだからそちらを気にした方がいいという著者と、汚れはその気になれば落ちるのだから気にしなくていい、注意すれば傷は避けられるのだから気をつけて生活するようにという旦那さん。

長く一緒に生活していても、こんなに思うことが違うなんて…と著者は途方に暮れてしまう。最後の言葉が忘れられない。

「生活していれば、どうしたって傷つくのよ。壁も床も、あなたも私も」

江國香織「とるにたりないものもの」より引用

これだけで1つの物語をみたような気持ちになりました。

他には「お風呂」「支度」「鉛筆とシャープペンシル」が好きです。共感したりちょっと笑っちゃったり、しみじみしたり、1つの本の中でいろんな味わいがありました。短い話ばかりなので、そうだなあ、キッチンに置いておけばゆでたまごをグツグツしている間に、トイレに置いてちょっとの合間に、かばんに忍ばせれば地下鉄を待っている間にさっと別世界に連れて行ってくれそうです。

とるにたらない話題なのに、別世界にいけるのはやっぱり著者の魅力なんだと思います。

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