BOOKS:LIMELIGHT

読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

空想ひろがる"架空の仕事人"インタビュー集「じつは、わたくしこういうものです」レビュー

最近は、自分の新たな一面づくりに精を出す日々です。昨年末にブログ書いてたらそんな気持ちになったんです。)
この一面を前に出していきたいから、そうするとこれはやったほうがいいな。逆に今までやってたあれは不要だから、習慣から外そう。とか組み合わせていると楽しい。
思ったより順調で、年末に総括するのがいまから楽しみだなあ(気が早い)。

そんななか、一面づくりがさらに捗りそうな本に出会いました。

クラフト・エヴィング商會の「じつは、わたくしこういうものです」。

なんだこの本、世界が膨らむふくらむ

古本屋で確かに岩波文庫の棚を見ていたはずなんだけど、目に留まったのはこの本でした。平凡社「太陽」という雑誌に連載していた、架空の仕事人へのインタビュー集。

総勢19人分の写真と意味深な文章。1人目が「月光密売人」から始まるくらい、中身はだいぶ現実離れしている。でも、生活の近くにあったらいいかも、と思える職業ばかりでした。

軽めな読み物ですらすらと読むうち、自分の空想の世界が膨らむふくらむ。なんだろう、余白本?そんなジャンルがあるのか知らないけど、物理的な余白ではなく、考える隙間、余地をたくさん残してくれている感じがします。

好きだった架空の"わたくし"たち

とくに心惹かれたのは、「時間管理人」と「選択士」。あと設定的には「シチュー当番」も好みです。順に内容と惹かれたポイントを話していきます。

時間管理人

あなたの「ああ、いいなぁ。」と感じた時間を預かっておいてくれるのが彼。
忘れたくない大切な時間を、箱の中に大事にしまって鍵を渡してくれる。ちなみに、別に箱はなくてもよくて、サービスで入れてるだけらしい。
いつでも返却OKで、ほぼ完璧に時間を再生してくれる。しかし、2度は預けられない。何度も何度も…ってセンチメンタルなのは、店主の趣味に合わないから。
返却依頼はほとんどないらしく、気持ちがわかる気がする。
心地よいひと時を、大切な思い出を、場所をつくって閉じこめるっていう幸せがあるんだよなきっと。
こんなブログがあってもいいなとか思う。

選択士

あなたの決められないことを、独自の物差しでスパッと決めてくれるのが選択士。
今日の晩御飯から結婚相手までなんでもござれ。即座に従うのが約束だけど、それは原則であって、自分で方向転換しても構わない。
本当は、漠然となんでもどうでもよくなってる人を心配していて、自分で決める元気が出てきたならよかったよって、選択士は思ってるから(いい人…!)。

シチュー当番

彼女が勤めているのは、森の中にある冬眠図書館。冬眠するように本を読むための図書館で、そこで司書兼シチュー当番をしている。
春と夏はうんと働いて、冬の間は利用者のためにシチューを作る。
本とシチューとパン。それにコーヒー。最後はブランケットまでかけてくれる。それぞれに当番がいるので、利用者は安心して冬眠するように読書に没入できる。
………今すぐ、わたしはこの図書館で冬眠したい。なんて幸せな場所だろうか!

それ以外にも、過去・現在・未来の自分の巻紙(手紙)を託せる「三色巻紙配達人」、ひらめきが鈍った人のランプを交換してくれる「ひらめきランプ交換人」、内に閉じこもり気味な時にシンバルで呼び戻してくれる「警鐘人」も面白かったなあ。

架空だけど、それぞれの人柄から生まれた"わたくし"たち

18人の架空インタビューが終わった後には、「じつは、わたくし本当はこういうものです。」という答え合わせがあります。
本物たちは、だいたい本の編集や装丁に関わる人たちなんだけど、作家の小川洋子が混じってて驚きました。本人が出演を希望したらしいです。(名前がよく似合う、かわいらしい人でした)

単行本化したときに、相当数の「種明かしは余計だ」という意見が寄せられたらしい。それに対する作者のクラフト・エヴィング商會の見解がまた好きでした。

「いっとき架空に遊んでいただき、最後は、お気をつけて現実にお帰りください」

クラフト・エヴィング商會作「じつは、わたくしこういうものです」より引用

でもね、あくまでこれは架空のものなんだけど、登場する人たちの本当の生業や人柄がちゃんとイメージとして反映されているんです。そんな"わたくし"たちだから、妙に立体感のある架空の仕事人になっています。

うまくいえないんだけど、「あの人のこういう一面には、こんな役割があるよね。」っていう、人格の再定義のような。本当に役柄が一面としてその人に宿っている気がするのです。

相手が知らない人を説明する時、続柄や職業をはじめに伝えがちだけど(そして聞いた時もそれを元に推測しがちだけど)、こんな説明ができたらいいなと思います。

これ、やりたいな。やるぞ

「じつは、わたくしこういうものです」

こんな風に話せる自分を、何人か具体的に作ってみよう。できる気がする。本を読んだら、やってみたい実際のかたちとしてみえたようで、嬉しい。なにより、こういうことに取り組んで実際に人を巻き込んで、本まで出しちゃってる人がいることが心強いな。

年末にうまくまとめられないまま上げてしまっていたあの記事は、答えられなかった「あなたは何に生きたいか?」の答えは、この本のいいたいことにかなり近い、気がします。

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まだ、「気がする」の段階で、やってみないと分からないけど。

読み終わったあともかなり空想がひろがって、いまは新たな計画を立てているところです。続けて話したいけど結構長くなりそうなので、日を改めてまた話すことにします。

みっちり知りたいことが書いてある本。伝えたい想いが詰まっている小説。そういうのもとてもいいけど。
こういう意味深にさっぱりとした、考える余地をたっぷり与えてくれる本も、かなりいい感じです。

クラフト・エヴィング商會の本、また見かけたら手に取ってみようと思います。