先日、世田谷美術館の「雑誌にみるカットの世界展」に行った話をしたばかりですが、同時開催の「土方久攻と柚木沙弥郎ー熱き体験と創作の愉しみー」展が、実り多く素晴らしい展示でした。メモがてらここに記します。
カット展のチケットを買おうとすると「今日が最終日で、料金もカット展込みで500円なんですよ~(にっこり)」と受付のお姉さん。「では、せっかくなので見てみます!(にっこり)」と、名前も知らない二人の創作展覧会を見ることにしたわけでした。
いつもこれにいこう!と決め打ちで行くほうなので、どうだろうかな…とはじめこそ不安だったけど、全くの杞憂。創作に対する考え方や、アプローチの方法など幅広く刺激がもらえる展覧会でした。むしろ、今まで知らずにいてすみませんでした…と二人の名を胸に刻んで帰りました。
お二人の名前は土方久攻(ひじかた ひさかつ)と柚木沙弥郎(ゆのき さみろう)。それぞれ印象に残った点を話していきます。
「土方久攻」…同じモチーフを、いろんな手法で表現することの醍醐味を知る
この方は美術学校を出た後、パラオなどの南国に身を置きました。13年もの間、現地の人々と過ごしながら制作を重ね、島に伝わる神話や儀式、生活の様子などの民俗学的な調査もしていたそうです。
帰国後は世田谷に住み、今までの体験を制作物に落とし込んでいきます。特徴的なのが、同じモチーフを木彫(木を彫りこんでつくる作品)、ブロンズ彫刻、水彩画と様々な手法で表現するところです。
木彫でわかったと思ったニュアンスが、ブロンズ彫刻で立体になるとガラッと雰囲気が変わり、水彩画で色がつくと細かい部分まで鮮明に浮かんでくる感覚がありました。どうやら晩年は病気にかかった関係で作品をつくる力が衰えて徐々に水彩画に移行していったようなのですが、わたしはこのアプローチの仕方に魅せられました。
自分の表現したい事を、一つの方法で終わりじゃなく、いろんな方法でアウトプットしてみる。これは以前レビューした「模倣と創造」という本でも大切さが分かっていたことでしたが、実際に見るとこんなに伝わり方が違うのかと唸りました。
とくに迫力があったのは「二人(間の抜けた闘争)」のブロンズ像です。
もっとも作者の愛着のようなものを感じたのは、「島の伊達少年」。


繰り返しつくることは、人生のテーマへの「再解釈」?
見ていくなかで、繰り返しつくることは「再解釈」という側面もあるだろうと考えました。時を経て解釈が変わった部分も反映されて、見え方が違うのかも?と思ったり。
本でもブログでも芸術作品でも、「人それぞれの人生につき1テーマ」が、必ずあると思うんですよね。日々いろんな方のブログを読ませてもらう中でも、あ、この部分がこの人の人生のテーマなのかも…って思うことがあります(勝手に)。わたしはまだ分かってないんですけど、傍から見たらすぐに分かっちゃうのかもしれません。
わたしは人生のテーマを、土方久攻のようにいろんな方法で掘り下げて探求することはこの上なく素晴らしい生き方であって、これこそが生きる醍醐味だと感じます。
「柚木沙弥郎」…好きなものを、好きなだけ。創作の原点がみえた気がした
画家の家系に生まれ、自身は染色の道に進んで、女子美術大学の学長もしていた方です。「型染」という手法は初めて知りましたが、パキッと色味が分かれた大きな作品たちは、どれも温かみがあって素敵でした。
気になった本と、考え方
展示説明の中で、柳宗悦の「工藝の道」で工芸に関心を持ち、さらに「民藝」でものとの付き合い方を知った、とあり、ああ、この人は本で人生が変わった人なんだな…と興味がぐっと近くなりました。
多分この2冊。また読みたい本が増えてしまったな…!
また、この方は100歳を超えるおじいちゃんなのですが、後半にあった自宅アトリエの様子…これが偏愛に満ちたおもちゃ箱みたいでワクワクする空間でした!
曰く、メキシコ玩具が気持ちを解放して身軽にしてくれた、ズビニェク•セカルの作品が求めていた精神性を気づかせるきっかけになった、とのこと。
ーー自分自身が美しいと思うもの、おもしろいと思うもの、それを見つけようとすることは、自分の心の中に自由を持つことにつながるんじゃないかな。
そしてその心の中の自由は、生きる希望にもなるんじゃないかな。ーー
「土方久攻と柚木沙弥郎」ー熱き体験と創作の愉しみー より
この言葉にも、救いを見ました。
誰かに教えてもらったり、合わせるんじゃなく、自分で見つけて気づくこと。そしていいなと思ったものを、常に自分の目に入るところに置いておくことが大切だと教わりました。
最後にインタビュー動画があって、そこでは「たまにやってもね、うまくいかない。やり続けることが大切なんだよ」とも話していて、もう、わたしがもやもやといつまでも悩んでいたことが、こんなにも的確に導いてくれるとは…!
こんな時、わたしは自分のすぐ後ろにいるご先祖さまが連れてきてくれたと考えるので、先祖にも感謝して帰りました。
よく知らない展示会、これからも行くことにする。
長々と、すみません。ここまで読んでいただきありがとうございます。
とにかく今回は、作品とともに創作者たちの精神性が深く沁み入りました。土方久功には「自分のテーマをいろんな方向で試すことの醍醐味」を、柚木沙弥郎には「好きなものを好きなだけ身近におき、心の中を自由にすること、日々表現をしつづけることの大切さ」を学びました。
もう終わっちゃっておすすめできないのが残念ですが、表現することにもどかしさを感じている方には響くものがあると思います。作品や作者について知る機会があれば、是非おすすめしたいです。
これを機に、よく知らない世界の展覧会にもどんどん行こうと決めました!行くから、知れるんだもんね!

