BOOKS:LIMELIGHT

読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

落語でひろがる「好き」の気持ち(こっちへお入り/平安寿子著/読書レビュー)

小説「こっちへお入り」は、アラサーOLが落語に目覚め、日々の生活や周囲もひっくるめて少しずつ変化していく話。私も同じように目覚め、周囲が変わっていった経験があるので共感するものがあった。

こっちへお入り (祥伝社文庫)

主人公は32歳OL。仕事は大変なこともあるけどまあ何とか。彼氏もいるけどすごく幸せというわけでもない、という等身大の人物。

自治体の落語教室に通う友人に誘われて、落語の発表会を観るシーンから始まる。お世辞にも上手いとは言えない素人落語を観ながらも、なかには魅せる落語もできる人がいることに気が付く。流れで行った打ち上げで、上手い下手問わず生き生きと「次は何をやろうかね~!」と話す彼女たちをみて思わず「落語ってそんなに面白いんですか?」と話したところ、じゃあ試しに教室おいで!と、とんとん拍子に習うことになる。

そこからの主人公ののめりこみがすごい。初心者の定番「寿限無」から始まり、あっという間に台詞を覚えたと思ったら、「金明竹」「大工調べ」等、次々に通勤やら職場のすき間時間やらで夢中になって聞き込む。自分で落語を演じてみてはテープで録音してその出来てなさに悶え、落語教室では未完成な落語を披露しながらも自分なりに奮闘し、フィードバックをもらって次に活かしていく。

主人公の”やれることをやってみよう”の精神をみていると、すがすがしくて楽しい。

なかでもわたしが特に好きだったのは、彼氏との関係の変化の部分。翻訳家を名乗りつつも、生計は英語スクールの教師で立てている彼は、落語の話は教養の一つとして興味があるくらい。付き合って5年が経ちなんとなくけだるい雰囲気だった2人の関係が、徐々に落語に引き込まれていくのが嬉しかった。落語自体の魅力ももちろんあると思うんだけど、好きな気持ちとか熱量って確実に伝わるものがある。好きなことについて話してる人って、独特の熱いオーラがあって聞いていて面白い。影響されるのは必然だと思う。

私の場合だと本がこれにあたる。最近は隙あらば本を読み進めていて、面白い部分があれば口にしたくなって話せそうな人に話す。興味が湧いて読んでくれたり、この間の本は〇〇にも関連するらしいよとか、そういえば私はこの本を読んだんだけど…とかいろんな話をするようになった。同時に、音楽とか服とか、向こうの好きなものも話してくれるようになった。好きなことを話す時に嫌な気持ちになる人はいないので、そうやって好きが呼応していくのは本当に気持ちがいい。

この本は落語がテーマではあるけど、好きの熱で周囲も変わっていくことを再認識できた本だった。ちなみに、落語に興味がある人にはもちろんすごく楽しいと思う!著者も落語好きで、解説をいれてくれてくれてたりする。落語マニアレベルだと、著者の偏愛ぶりが分かるらしい。全然わからないので、落語マニアの人にも読んでもらって是非感想を聞いてみたい。