BOOKS:LIMELIGHT

読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

本棚を前に、小話の世界に浸るーこばなしけんたろう(小林賢太郎著)感想

下北沢に、両方の壁が全部本棚、というカフェがある。

真ん中に一本、レジに通じる道があって、両隣の本棚に向かい合うようにしてソファや椅子が置いてある。

本を読んだり、本棚をみたり、自分の作業をしたり、みんなそんなふうに黙々と過ごしているのが好きでたまに行く。

先日も待ち合わせの前にふらっと立ち寄ると、この本が目に入ってきた。

ラーメンズとして活動していた、小林賢太郎の小話が載っている本。

持ってきた本を読もうとしていたのに、独特な世界に惹きこまれて、一時間ほどの滞在はすべてこの本を読むことに費やした。

イメージでいうと…けだるさと、くすっとした笑いと、少しの切なさがある、飲み屋のお通しみたいな世界だった。

その空気感を忘れたくなくて、ちょっとここに書き残しておこうと思う。

僕と僕との往復書簡

これは著者の小林賢太郎の話。20年前と今の自分との往復書簡ということで話が進んでいく。二人には共通の目標があって、それは作家になること。

目標に関して二人で話し合ったり、提案したり、時にはお互いのズルを指摘し合ったりする。性格が全く同じなので、手口をあばきあったりしてるのが楽しい。

将来の夢が叶うということは、叶える方法を自分で考えて、それを実行するということだ。(中略)宝くじで100万円当てるのではなく、1円の儲けが出る仕事を100万回やるということだ。

小林賢太郎著「こばなしけんたろう」より引用

今の自分から出たこの引用文に、すごくジンとくる。さまざまな分野で活躍している人たちはみな、愚直にこれをやっているんだよなあ。

"自分で考えて"ってところがミソだと思う。どんな本や他人の意見も、それは叶える方法ではない。それを参考にしながら、自分で組み立てて試してみる。例え1円分の実りしかなくても、100回でも1万回でも100万回でも試行錯誤を重ねて進む。

それでようやく道が見えてくる。

最後まで読むと、手紙のやり取りだけだった世界が、人生を通した壮大な物語に感じる。だけど一文一文は全然気取ってなくて、フランクな感じなのがすごく不思議だった。また読みたい。

セルフポートレートワールド

何とも興味深い"自画像世界"の話。ラーメンズのネタにもこういうのがあったような、なかったような。

美大に入るための塾に通い始めた男の子が主人公。ある日突然、「スガタミノカミ」が降臨する。これは全世界の人に降りていて、渡された紙に書いた自画像の顔で生きていくことになってしまった。

当然、美大予備校に通う主人公だから、超美男子に変身を遂げることに成功した。容姿端麗なモデルや俳優などは、絵が下手で職を失う人まで出てきている。

優越感に浸りながら塾に通う主人公は、恋に落ちる。同じ予備校の、それはそれはきれいな女性だ。ここから物語は切ない甘さで進んでいく。

もう!こういう切なさが大好きなんだ!

自分の汚い部分をひた隠しながらも恋焦がれる。好きだから近づきたいのに、自分を知られたくないから離れたい。矛盾した思いを胸に足掻く姿には共感なのか、共鳴なのか、すごく心震えるものがある。

2つ目に読んだこの話で確信した。わたしは著者の転調部分が好きだ。ガラッと転調していった先に、ふわっと着地する感じ。惹かれるなあ。

100文字の原稿用紙

題名は忘れてしまった。見開き1ページに100文字分の小さな原稿用紙が印刷してあって、そこに手書きで小話が書いてある。100文字分だから、テーマに関しても導入だけだったり、少しの展開しか書いてなかったと思うんだけど、これが面白かった。

たった100文字でも、人となりというか、書き手のもっている世界は出ると思う。わたしもやってみたいなと思った。やるなら即興の遊びとして、手書き1発勝負でやりたい。

あの本屋に行って、この本を読むことで1セット

こばなしけんたろう、すごく続きが読みたいんだけど、まだ買わないでいる。電車とか家とか、いつも自分が読む場所だとちょっと違う気がするから。

あの両方の壁が本棚の、本棚に向かい合うようにして置いてあるソファに座って、病みつきになる「えらい辛いホットジンジャー」をちびちび飲みながら、また小話の世界に入り込みたい。

今日紹介した3つの話は、全体の1/5にもなっていないと思う。そんなに頻繁には行けないけど、何度も通って少しづつ読み進めよう。なかなか好みな読書体験だった。あそこで全部読み終えたら、その思い出と一緒に自分の本棚に収めたい。

books-limelight.com

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今日のタイトルは、はてなAIがおすすめしてくれた「本棚と小話の世界」から展開してつけてみた(こっちの方がよかったかなあ)。いつも最後に出がらし状態で適当につけてたので、キーワードを教えてくれるととても助かる。わたしとはてなAIはなかなか相性がいいかもしれない。