働く女性の短編集「絶対泣かない」レビューウィークも2週目の、2日目。だんだんと言語化しにくい人たちになってきました。今のわたしに読んだ後のこの気持ちが表現できるのか…?やってみます。
- 秘書:絶対泣かない
- 派遣社員:働く”領分”を考える
- 水泳インストラクター:人生の泳ぎ方を教わる
- デパート店員:人は見ている。誠実さは伝わる
- 地方テレビ局員:気持ちは測れない、それでも
6人目は、体育教師の女性です。先生っていうのは職業として考えた時に、気が遠くなるくらいに大変な仕事だなと思います。お金でも、時間でもない、使命感のような柱を強く持っていないときっと勤まらないだろうな…でもこの話を読むと、つまるところは人と人とのやり取りなのかも、と感じました。
大学でバスケをやっていた主人公。がっしりした175㎝の長身で、生徒からは力士のあだ名をつけられながらも土日を返上して授業、部活と忙しなく働く日々です。同じ部活だった友人はみんな結婚したけれど、自分は彼氏いない歴=年齢なことに引け目を感じています。
物語はプールの授業で、生理を理由に何週間も休む生徒を叱りつけるところからはじまります(わたしが学生の時も、夏だけ1ヶ月ずっと生理になる子がいたなぁ。)。
「いいか、あんたはね、すごく見栄っぱりなんだよ。ものすごくプライドが高いんだ」
……「あんたは失敗して、みっともない姿を人前に晒すのが嫌なんだよ。(中略)だから、苦手なもんをそうやって避けて知らん顔してんだよ」
山本文緒著「絶対泣かない(角川文庫)」より引用
それから努力することがどう大切なのか、つっけんどんな言い方で話します。この生徒は、華奢で儚げで、可愛らしい。何もしなくても男の人が放っておかないような、自分とは正反対なこの生徒が、どうも目について言葉がきつくなってしまいます。
場面は変わり、ひょんなことから男性と知り合う機会に恵まれました。このチャンスに感謝しながら、ことのほか会話も弾み嬉しくなります。しかしこのチャンスには、𠮟りつけた生徒が関係していました。
なぜ、あの子が?
この物語で本当に素晴らしいのは、生徒です。耳の痛い言葉を素直に受け取り、逃げていた自分に気がつきました。プライドを捨てて、できるようになるために行動し始めた。そういう心が本当に美しい。その上、主人公のためにきっかけまでをつくってくれた。
主人公は、以前生徒に言ったことを自分に重ねて反省します。
今まで恋人に恵まれなかったのは、見た目だけの問題ではない。苦手なものを避けて、いつまでも待っていたのは自分じゃないか。
自分の不得手な部分に対して、卑下して努力すらしなくなると、袋小路に入ったように動けなくなる。
主人公は遅くなったけど、気付くことができた。ここから仕事、プライベートともに人生が転換していく予感がします。
なんとなく弁明しますが、わたしはこの先生は生徒を極端に区別してひいきしたりする先生ではないと思います。この子に対しても、言葉選びはきついけど、至極まっとうなことを話しています。だからこそ、生徒に届いた。
このご時世、このような強い言葉は敬遠されるだろうし、場合によってはおおごとになってしまうこともあるでしょう。それでも、一人の人間対人間として、率直な言葉を交わして影響しあっていきたいな。
社会に出ると上辺だけの会話が多くなって、安心な反面少し寂しいです。まずは自分からなのかな。せめて友人や、家族とは、たまにこんなやりとりをすることがあってもいいなと思います。耳が痛いですが…その時がきたら言い訳しないでしっかり聞いて、素直に受け止めたい。