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読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

君はポラリス(三浦しをん著、新潮文庫)読書レビュー

恋愛に疎く、苦手です。恋にまつわる本もあまり読みません。それでもこの本を読んだのは、友達にお勧めしてもらったからです。

きみはポラリス(新潮文庫)

恋愛短編集で、30~50ページくらいの物語が11編入っています。著者は恋愛をテーマにした依頼が多いそうで、題材は果たして恋愛とひとくくりにできるのか…?と戸惑うくらいに幅広いです。著者自身が設定したテーマもあり、巻末で答え合わせのように教えてくれるのも楽しかったです。

ここからはわたしの印象に残った話を紹介していきます。

わたしたちがしたこと

3話目のこの話で一気に没入しました。おままごとのような愛情を注ぎあう、当時高校生だった2人のしたこと。背負っていくにはあまりにも重くて、お互いを想うほどに苦しい。いつまでも一緒にいたいのに、いると辛い。主人公の「わたしたちが」、「二人が」したことだと主張するところに深い情を感じて、個人的にすごく胸にきました。だれかと著者の話題になったら、私はこの物語について話すと思います。

優雅な生活

主人公はOL。同棲している彼氏はライターで、主人公の家の納戸を事務所代わりに使い、タバコもばかばか吸う(サイテー!)。そんな不満が募りがちな主人公は、職場のキラキラ社員たちの健康や美容の話に影響されて、玄米を炊き、ヨガを始めます。パサパサの玄米とヨガを強要されて彼氏がとった行動がもう、大好き。俺が本物を見せてやる!とばかりにエアコンから火鉢に変え、冷蔵庫からは動物性たんぱく質を消し大豆中心に、野菜は有機野菜に変えて、シャンプーは牛乳石鹸にはちみつトリートメント。果ては自分で石鹸を作り始めます。

けんかなどでよく、私の話聞いてないじゃん!となるところが、この彼はちゃんと聞いたうえで想像を超えた行動を見せてくるところが好きでした。最後の2人の仲直りのかたちもいい。日々生きるなら、こんな恋がしたいな。いやでも本当にやられたらめんどくさいかも。

冬の一等星

これは、俗にいうストックホルム症候群というやつなんだろうと思います。幼い頃、車で連れ去られた経験を持つ主人公。盗難車両の後部座席で眠っていて、たまたま連れ去られた主人公は、危害を加えられる訳でもなく男と過ごします。こんな状況下でも等身大で接してくれた男との時間は、大人になった今でも主人公の頭の片隅にあって、当時の様子を思い返しながら、現在もときたま車の後部座席で眠る。そしてもう一度あの男と話したいと願う…。

この男が、どこかに向かう途中でやむなく車を盗難(それでもだめだけど)したような状況で、悪人感がありません。子供だからと態度を変えたり、ぶっきらぼうになったりせずに人と人として対話していたのが印象的でした。この男とまた会うことはきっとないのだろうけれど、主人公の中でずっと生き続けるだろうな…と思うとこんな形も悪くない気持ちになりました。

 

他には「夜にあふれるもの」、「春太の毎日」が好きでした。

お薦めしてくれた時、友人は最終話の「永遠につづく手紙の最初の一文」が1番好きだと言っていました。確かに、この最後の話を読むと、はじめの話が読みたくなる仕掛けになっていて面白い。週末会うので、お互いに感想を言う合うのが今から楽しみです。

君はポラリスを読んでみて、恋愛とはいっても、つまるところは人と人が深く関わることだよな。顔やしぐさや雰囲気だけじゃなく、心が動くポイントはそれぞれ違うことが分かります。

恋愛が得意な人はめったにいないと思うけど、意識しなくてもよく見せようとしなくても、自然と惹かれていくものだったよなぁ。としみじみ思い出しました。

この本はいろんなかたちの深い人間関係に会えます。恋愛についてばく然としたもやもやがある人、「恋愛」「恋」「好き」を考えすぎてゲシュタルト崩壊を起こしてる人は新たな発見があるかもしれません。