不思議な美術鑑賞をしてきました。
未だに思い返すとなんだろう、ひと夏の奇妙な体験をしたような…すごく大事なことを、決してやさしくないかたちで教えてもらったような…とにかく一旦、言語化させて心を落ち着かせようと思います。
顕神の夢ー霊性の表現者ー超越的なもののおとずれ
これが展覧会の名前です。一度読んだだけでは「…はい?」という感じですが。
表現するとはどういうことなのか。ジャンルが異なる作家50人以上の作品たちを、霊性(スピリチュアル)の尺度で測っていく、というなかなかない視点の試みです。
「顕神の夢」とは。
まず、この「顕神の夢」とは。この展覧会がつくった造語です。チラシにこの言葉ができた経緯が載っています。最初の段落だけ引用して掲載します。
☞非合理的で直接的な経験が表現者にとってかけがえのないモチベーションになることがあります。それはある種の宗教的な体験に似ていますが、宗教以前のものであり、宗教のもととなる出来事とも解釈できます。……
「顕神の夢ー霊性の表現者ー超越的なもののおとずれ」チラシより引用
※原文ではないですが、こちらにも文章がありましたのでよかったら。☞美術館ナビ
最後まで何度読んでも頭に入ってきそうで入ってこない、難解な文章でした(わたしの理解力不足の可能性も高い)。そして展覧会も同じく。会の後に何度も読み返し、思い返して、こういうことかな…?と私なりに理解したことを話します。
人は人智を超えた経験をしたとき、言葉に言い表せない思いを、絵や、彫刻や、物語に宿らせようと試みる。しかし、表現したい"何か”は追い求めれば求めるほどに手から滑り落ちていく。"何か”は、追うものではなく、待つよりほかにない。それでも表現者たちは"何か”を捉えようと、今日も憧れ、恋焦がれ、もだえ苦しむ。
この心情を「顕神(けんしん)の夢」とする。それはある種の霊性との出会い、宗教の信仰心に似た体験である。
わたしの言葉…というかチラシにあった難解な言葉を柔らかくして、順番を入れ替えただけかもしれないですが。雰囲気が伝わったらいいなと思います。
気になった作家と、作品
「表現する」とはどういうことなのか。この漠然とした答えのないテーマ、そして作品を「霊性」というものさしを使って測り直していく。このものさしをしっかりつかんでから観たらだいぶ違かったかもな。
着想の文章が掲載されている作家もいて、50を超える創作者たちの視点がみられる贅沢な体験をしました。それぞれの追い求める姿…苦悩こみで魅せられます。
わたしが気になった作品、作家は以下の通りです(敬称略)。写真が取れない展示だったので、文章だけです。(写真NGの展覧会大好き!見るのに集中できる。)
横尾龍彦 「枯木龍吟1」「龍との闘い」
霧の中でぼんやりと浮かび上がるような、幻想的な作品でした。自分のメモが汚すぎて見えないんですが、幻視は霊的進化…?空想は知的遊技、と書いてありました。もう一度注釈込みで鑑賞したい。
宮川隆 「無題」
ボールペンで書いたような、黒の線だけなのにすごくいい。ああいう敷き詰められた模様を見るが大好きで、しばらく眺めてました。作品の一つに、仏の顔が敷き詰められてるのがあって、みんな微笑んでいるけど表情が少しずつ違って見ごたえがありました。
髙島野十郎 「蝋燭」
今回一番惹きつけられたのはこの「蠟燭」です。小さな額縁に火を灯した蠟燭が一本、そこにあるだけなんですが。見ていると気持ちが鎮まる感じがするんです。いつも心の中にあの一本の蠟燭があればいいなと思います。お気に入りの喫茶店にあれがあったらずっと眺めていると思います。
物販にこの人の作品集があって、ううう欲しかったんですが5000円。予算オーバーでした。でもこうやって時間がたっても欲しいと思ってるなら買えばよかったなあ。次に出会えたら買おう。
下の本は読んだことがないけれど、帯にある川上弘美の文章がまさに!だったので載せます。目が離せなくなるんです。
石野守一 「不安」
これを見たときに真っ先に思い浮かべたのが一緒に住んでいる家族でした。理性的なのに、隠せない中身がこちらを覗いている感じ…?うまく言い表せないのですが、マンガでいうとベルセルクっぽい感じです。
見終わった後に、家族に何が一番よかったか聞いたら、この方のもう一つの作品「襲う」でした。本人にも自覚がありそうだな。
古賀春江 「サーカスの景」
なんていうかサーカスなのに静かなところがいいです。夢の中のような感じでした。検索してネットでも見たんですが、これは本物を見たほうがいいです。色が全然違います。あと大きさも。
その他
作品が鮮明に思い出せないものの、他にメモしてあった作家の方は吉原航平、若林奮、舟越直木、黒須信雄です。馬場まり子は、書いてあった文章が良かった、とメモしてあるけどその文章が知りたいんだが…。自分のメモ力のなさに憤ります。岡本太郎、円空、横尾忠則、宮沢賢治がみれたのも嬉しかったです!!
わたしがみえる向こう側の"何か”はなんだろう
自分は何を作っているっていう訳じゃないけど、作ることへの憧れはある。気が狂いそうに、時には本当に狂ったりしながら作る作家たちの心の中が少し見えた気がしました。
物作りにかぎらず、一つのことを一生懸命に必死になってやったら向こう側が見えてくるものなのかも。その向こう側は神だったり宗教めいたものだったり、母、自然など、人それぞれに違うと思います。見えてしまったら、正気ではいられない世界かもしれません。それでも見てみたい。
展覧会を見終わったあとは不思議な静けさがあったんだけど、そこからじわじわと思い出しては味わっています。図録が売り切れで変えなかったのが本っっ当に心残りで…
もう岡本太郎美術館、足利美術館では終わってしまいましたが、巡回展があるので遠征しようか迷い中です。こんないろんなジャンルの作品が、珍しい角度でみられる機会はそうそうないと思うので、とてもおすすめです。
今日は読書の話じゃないけど、まあ本の興味の幅が広がった話ということで。本当は図録でじっくり振り返りながら話したかったです!!!
【巡回展一覧】
・久留米市美術館(福岡県)2023年8月26日(土)~10月15日(日)
・町立久万美術館(愛媛県)2023年10月21日(土)~12月24日(日)
・碧南市藤井達吉現代美術館(愛知県)2024年1月5日(金)~2月25日(日)