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読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

生きるよるべ、ボコノン教案内(猫のゆりかご、カートヴォネガット著)読書レビュー

週末にカート・ヴォネガットの「タイタンの妖女」を読んでいたのですが、無性に「猫のゆりかご」が読みたくて仕方なくなり、再読しました。

猫のゆりかご

厳密に言うと、ボコノン教でまた遊びたい。遊ばれたい。今日は物語の概要はいったん置いといて、この物語に出てくるボコノン教について話していきます。

この宗教は、この本を語るうえで外せない存在です。ライオネル・ボイド・ジョンスンがつくったとされる宗教で、文中にはボコノン教用語がふんだんに使われています。

宗教観は実際に読んで雰囲気をつかんでいく方が楽しいので、ここではわたしの好きなボコノン教用語をご紹介していきます。

  • フォーマ:無害な非真実
    本書冒頭「ボコノンの書」の引用にありがたいお言葉があります。

    「〈フォーマ〉を生きるよるべとしなさい。それはあなたを、勇敢で、親切で、健康で、幸福な人間にする」ーー『ボコノンの書』第一の書第五節
    カートヴォネガット著「猫のゆりかご(ハヤカワ文庫)」より引用

    無害な非真実を生きるよるべとする。物語を読み終わった後にこの文章を読むとものすごい皮肉を帯びた言葉なんじゃないかと笑いに似たなにかがこみあげてきます。
  • グランファルーン:無意味な連帯感、儀式
    わたしはボコノン教用語の中でこの言葉が一番好きです。
    主人公と同じインディアナ出身だと知った人物が、”インディアナっ子はみんな立派でいい人なのよ!”的に同一化・連帯化して主人公が辟易する印象的なシーンがあります。

    “グランファルーンを見たいなら、風船の皮を向いてごらん”
    カートヴォネガット著「猫のゆりかご(ハヤカワ文庫)」より引用

    慣例的な構造、出身学校等で連帯化すること、意外とごろごろ転がっている「これ意味あんのか…?」ということに出くわすと、いまだにこの用語を思い出して風船の皮を向くイメージを膨らませてみたりしています。

他にもたくさんのボコノン教用語があります。あまりに飛び交うので小説にポストイットでメモしてました。せっかくなのでご紹介していきます。

  • カラース:神の御心をおこなうチーム
  • カンカン:カラースの中に組み入れる道具
    (主人公が執筆している『世界が終末を迎えた日』がこれにあたる)
  • シヌーカス:人生の巻きひげ
  • ワンピーター:カラースの軸、ワンピーターのないカラースは存在しない
  • デュプラス:わずか2人で構成されるカラース
  • ウィンディット:ある人間がボコノン教の方向へ一押しされること
  • ランラン:人々をある思考の路線からそらそうとする人

意味わかんないですよねー、わたしもです。作中ではこの用語が絶えず飛び交い、翻弄されます。その煩雑さに振り回されるのが楽しい。読みにくいけど。

でもこれ、実際の生活でもありませんか?すごくシンプルな話のはずなのに、たくさんの専門用語や構造を使って物事を複雑に入り組んで見せていく仕組み。自分の頭の中で整理されていない悩みとかも意外とこれにあたると思っています。

この物語を読むことは、入れ子式にどんどん複雑化されていったものを、一個ずつ中身を空けていく作業に近いです。一番最後まで開けてみると、はじめのフォーマの説明がすごくしっくりきて大好きな作品になりました。

奇妙で煩雑で皮肉にあふれている、私は大好きな世界観なのですが、人によってはめんどくせ!と思う人もいるかもしれません。でも楽しいですよー。
このブログをカンカンとして、一緒にカラースになりませんか。そしてフォーマを生きるよるべとしませんか。