用事があり先日、東北新幹線に乗った。車内のお楽しみはフリーペーパーの「トランヴェール」だ。
以前は沢木耕太郎が「旅のつばくろ」というエッセイを寄せていた。いまは、「旅のまにまに」というものを柚月裕子が書いている。
今回の題は、「旬の旅」。読んで得た感覚を忘れたくなくて、書いておく。
「旬の旅」
介護してきた親を見送り、一周忌も終えて、若い頃の憧れだった海外に行ってきた女性の話。リゾート地で彼女が感じたのは、「旬」ではなかったということ。季節や食べ物のことではなく、「自分の旬」だ。
読む中で、憧れていた頃の彼女だったら、体力も味覚もあの頃だったら、もっと楽しめたのだろうか…と戻れない過去を思い、切なくなる。
その人が素敵なのは、がっかりして終わるのではなくて、切り替えて自分の今の旬を探していたところだ。
昔の自分の願いは思うように叶えられなかったけど、今の自分の願いなら叶えられる。
時間をつくり、興味・関心を探り、今の自分に対してできる範囲で叶えてあげる。それってすっごくいいな!と明るい気持ちになった。
「旬」は、自分の中に
エッセイでは、旅行だけじゃなくて、本、映画、音楽。その時々の自分に合ったものを取り入れる良さについても思い起こさせるものがあった。
そこから、家族や、大切にしたい人との旬もあるよなぁ、とぼんやり考える。
いつも未来に向かって駆けずり回っているけれども、いま、ここを味わう時間を増やしたいな。
そういえば物語の中でも、大きな目的の中にある穏やかな日常パートが好きだった。
まずは日常から。ちょっとした時間に起こる、ちょっとしたエピソードを味わおう。
この人の書くものをもっと読んでみたい
最後の人物紹介のところをみて驚いた。こんなに柔らかな印象の文章を書く人が、メインで書いているジャンルがミステリーらしいのだ。
このミステリーがすごい!の第8回大賞を取ったという「臨床心理」。人の感情が色で分かる共感覚を扱った作品だそうで、面白そう。
「慈雨」と聞いて、山田詠美の「無線優雅」に出てくる主人公と、あの宙ぶらりんな空気を思い出した。しかしこの物語は相当ずしっときそうな感じ…
推理だとかミステリーとかは、まともに読んだことがない。やっぱり文体も違うのかな、気になる。この出会いによって、わたしの旬の一つがこれから始まるかもしれない。