BOOKS:LIMELIGHT

読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

切り貼りで浮かび上がる思想と人生-カート・ヴォネガット『パームサンデー』感想

この記事は、カートヴォネガット「パームサンデー」を読んで「面白かった!」以外の何かの言葉で残しておこうとする試みだ。臆せず書いていこう。

この本は、著者の講演、書評、インタビューなどを、エッセイで繋いである“自伝的コラージュ”作品。「ヴォネガット、大いに語る」に次ぐ二作目で、他に2冊本が出ている。

年代別には以下の通り。

私にはこの本を紹介する技量がないのだけど、親切な著者は「ブリヴィット」という単語を用いて説明してくれている。単語の直接的な意味はあまり衛生的でないので…説明は割愛。実際に読んでからのお楽しみとしてほしい。

別の言葉で置き換えると、ラジオや無線などの周波数の一切を遮断して独自に語りかけてくる「全周波帯攻勢」。繊細なアンテナを持つ感受性豊かな読者には伝わるメッセージということらしい。

内容は、しばしば現実と虚構を織り交ぜて、皮肉で包み込む。これは著者の小説の体裁にもあてはまる。

歴史、戦争、宗教。正直なところ、どれをとっても私には理解が難しい。
一族、家族、書くこと。この分野は、ほんの少し味わえたと思うので、引用を交えながら話していこう。

2章「ルーツ」:一族にみる自分の位置

この章では、思いがけず自分の家系について知ることになった経緯から、3代さかのぼった祖先たちの人柄や行いの詳細が載っている。

小説家の著者が語るからか、実際に生きている様子が垣間見えるような不思議な感覚になる。曾祖父のクレメンズ・ヴォネガットと思想上の共通点が多いことに運命的なものを感じている姿が印象的だった。

“華麗なる一族にも悲哀があり、そして過去はもう、どうしようもなくあるものだ”
私の感想はこれだけど、時が経って読み直したらまた変わるだろうか。

最後に、直接血のつながりのない親戚から寄せられたゲーテの引用文を、私も抜き書きさせていただこう。

「君が父親から相続したものがなんであれ、それを真に自己のものにするためには、同じものをみずから努力して手に入れたまえ」
カート・ヴォネガット「パームサンデー」より引用(P97)

11章「宗教」:思想上の違いが別れを生む

著者は2度結婚している。57歳、長年連れ添った妻との離婚理由は「宗教上の思想の不一致」だ。

信じているものの違いが別れを生むことの辛さと無念のようなものが、この章全体から感じられる。著者は不可知論者であり、宗教の存在自体を信じていない。先程のルーツにあった曾祖父もまた同じだった。

「自由思想を抱きながら、迷信に捉えられた配偶者を選ぶ男は、自己の自由と幸福を危うくする」
カート・ヴォネガット「パームサンデー」より引用(P291)

著者が生まれるずっと前に、著者が長年苦労してきたことの答えが出ていることに何かを思わないわけがない。こういう偶然…業のようなものがあるから、人生は趣深い。

しかしながら、ここには妻の言葉がないなあとも。自分の子供に加えて、尊い理由から著者の姉の子供をを養子に迎え、総勢6人の子供を育てながら実際に日々を運営していくなかで、「超自然的なもの」に救いを求めることでなんとかしのいでいたのかもしれない。

そう思うと、なんともいえない…著者の小説を読んだ後に湧き起こる気持ちに似たものがあった。

4章「選別」:書くことに分別を

湿っぽくなったのでここで方向転換。この章には、著者が文筆家志望者の「中間の三分の一の人々」を対象に書いたエッセイが載っている。分野は違えど私も日頃から書いているのでやっぱり興味が湧いた。

まず、新聞記者や専門分野について書く人は自分のことを一切見せないように訓練されていること。そして、それ以外の物を書く人々は意識・無意識関係なくふんだんに自己をさらけ出すものだということを記してある。

紙に何か文章を書こうとするとき、忘れてはならぬことですが、自分にとってなにが興味深く、なにがつまらないか、自覚してはいないことを暴露してはいけません。そんな暴露ほどのろわしい自己顕示はありません。
カート・ヴォネガット「パームサンデー」より引用(P121)

もうこの時点で、今日のこの記事を書いている私はボッコボコの状態なんだけど、続けて読むと少し気持ちが変わった。

だから、自分自身の魅力的な文体を持つために、あなたはまず自分の頭のなかに興味深い考えを持たなければなりません。自分が関心を持ち、他人もきっと関心を持つと本気で思う主題をまず見つけることです。
カート・ヴォネガット「パームサンデー」より引用(P121)

私が日々本を読んで感想状のエッセイを書いているのは、原作ありきの二次創作みたいなものなんじゃないかな。私はまだ自分の主題が見つかっていないので、スタートにもいないんだろう。

ちなみに、著者は別に小説を書くように進めているのではなく、関心事はラブレターでも要望書でもいいとしている。

ただ、だらだらと書くのはおやめなさい。
カート・ヴォネガット「パームサンデー」より引用(P121)

この言葉を実践すべく、まとめにとりかかろう。

思想や経緯が浮かび上がる“自伝的コラージュ”作品

パームサンデーは、著者の自伝的コラージュ作品。小説以外の仕事(講演、書評、インタビューなど)を切り貼りしてエッセイでつなぐと、見事に著者の思想やこれまでのことが浮かび上がってくる。ただ、著者はシニカルな味付けを好んでいるため、読み口は何とも言えない独特なムードが漂っている。万人受けしないけど、好きな人は確実にいる!というやつだ。

今日はパームサンデーを読んで、面白かった!以外の言葉を残そうと躍起になってみた。趣深い、興味深い内容だと、読んだ方が思ってくれたら一応成功だと思うんだけど、どうだろうか。読み違っているところなどあれば、そっと教えてほしい。

(おまけ)読んでみたい『なにかが起こった』

この本を読んで、読んでみたくなった本がある。

ジョーゼフ・ヘラー『なにかが起こった』

キャッチ=22で知られる小説家が、スローカムという男の生活を、独白の形式で形どった作品。なんとも閉塞感のある内容のようなんだけど、ヴォネガットが説明するとすごく読みたくなる。小説家は小説の紹介がものすごくうまいといつも思う。

ただ、調べたら全然市場に出回っていないらしく、上下巻なうえにどちらも3000円越えのレアものになっている。いつか読みたい。