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読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

火星人に揺さぶられても無感動だった私たちへー阿部公房「人間そっくり」感想

ひたすら意味が分からなそうなものが読みたいと、阿部公房「人間そっくり」を読んだ。希望は叶ったものの、最終的な読後感は「ギリギリどうでもいい」だった。

気になってレビューサイトを見ると賛辞がほとんどで、自分のなかにある違和感を話しにくい。ただ、この作品に感銘を受ける人間がいる一方で、私のように読み終わってなおどうでもよくなる人間も必ずいると思う。

今日は、読後に気持ちを持て余している人に向けて、私の考えたことなどを投げかけてみる。ネタバレなど気にせず書くのでご注意を。

あらすじ

「こんにちは火星人」というラジオ番組の脚本家が主人公。脚本家の家に、自称火星人のセールスマンがやってくる。

一見人間にしか見えないこの男は果たして、本当に火星人なのか、それともただの狂人なのか。

延々と問答が続くうちに、自分というものまで分からなくなっていく。

観念と観念の会話劇

物語は主人公と自称火星人の男、それぞれの妻という4人で展開される。が、基本的には主人公と自称火星人がずっと会話をしている。

弄ぶように話す火星人と気丈に振る舞いながらも相手のペースに飲み込まれていく主人公の構図を、どこか離れたところから見る感覚になる。

  • 人間そっくりの火星人なのか、火星人だと思い込んでいる狂人なのか。
  • 自分は地球人なのか?地球人そっくりの火星人なのか?
  • 順応できないのは、地球の精神病なのか、火星の精神病なのか。
  • この結末は、寓話が実話に負けたのか、実話が寓話に負けたのか。

自称火星人の男は、主人公の観念をあの手この手で揺さぶる。2人の問答は観念と観念が喋っているようだった。これは演劇であってあなたは観客でしかないと、特定の人物に感情移入するのを拒んでいるかのような仕掛けに感じた。

背後にそびえる「どうでもよさ」

2人の会話を聞いていると、とにかく面倒な気持ちになる。

火星人かどうか話してると思ったら、巧みにナイフを扱って脅しをかけてみたり、小説家に転業を進めたり、興味を持ったらさっと取り上げたり。

はじめの方こそにやけつつ読んでいたものの、途中からは「またか…」「まだやんのこれ」とだれてくる。

ただ、終盤にかけての転調で、自称火星人側の側面が見えて、一気に物語が立体的になっていく。最後は場面が一転、冒頭に戻り、読者への疑問の投げかけで終わる…やっぱりこの物語は芝居味がある。

そして読後に残った気持ちは拮抗したものの…僅差で「どうでもいい」が勝った。火星人であっても、地球人であっても、別にいいじゃないか。と思ってしまった。

火星人視点ならば、一転?

しかし、世間の評価は割と絶賛。めちゃくちゃ面白かった、なんて感想も転がっている。

そこでちょっと考えた。自称火星人側を主語に置き換えてみよう。

主人公は地球特派員の火星人。以前派遣されて地球に毒された火星人の救済に来ている。

自分の使命を忘れ、地球人だと思い込んで生活している火星人を見ると憐れでならない。念入りに準備を重ね、あの手この手で火星人だと思い出させる作業は一苦労だ。

先日も1人、なんとか同胞を救うことができた。しかし彼は未だ混乱しており、口をつぐむばかりであった…

…あれ?めちゃくちゃ面白そう、てかこういう風に読み返したら新鮮に楽しめそうな予感がする!

…ということは?私はどっち側なんだ???
これは考えないでおいたほうが身のためだろう。(作品をこねくり回して申し訳ございません)

観念を揺るがす160ページ、それは間違いない。しかし私のようにトータルで無感動だったそこのあなた、感想をこっそりとネットの海に流してもらえないだろうか。やるせない気持ちを持て余した少数派の、同胞を求める切実な願いをここに残しておく。