BOOKS:LIMELIGHT

読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

叔母を思い、迷いながら書く感想ー「二十四五」を読んで

今日は「二十四五」を読んだ話をしていきます。亡くなってしまった叔母と、主人公にまつわる物語。「十七八より」「未熟な同感者」「最高の任務」に続く4作目で、大人になった主人公が弟の結婚式に参列するため仙台に向かうところからはじまります。

二十四五

二十四五

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いつもながらに、私はこの物語が読めていないと思います。読みながら気持ちがあっちこち行って、定まらない。あっちこちというけど、基本的にずっと叔母のことを考えている。そんな偏った見方のレビューなので、こんな人間もいるのか程度の気持ちで読んでください。(引け目ならレビューすんなと言う自分からの突っ込みがありましたが、感情があふれると書かないではいられない。著者の力量がそうさせます)それではどうぞ。

読み違いを重ねる

物語に入る前段階の話。読む前と読み始め、勘違いが続いた。まず、4作目があったこと。前回3作目「最高の任務」を読んだ後、これで終わりだと信じて疑わなかった。そういえば、完結なんて書いてなかった。勝手に終わってたと思ったのは私だけだったんだ。

読み始めて、二十四五って2045年かと思ったら、二十四、五歳か。そりゃそうだ。一部作が「十七八より(17.8歳の頃の話)」なんだからすぐわかってもいいものを。ということで、叔母が亡くなって5年後の、まだまだ若い主人公を目にする。

小説家となって、人と出会って

5年経った一番の変化は、主人公が有名な賞をとるまでの小説家となったこと。「書くこと」の高みに登った彼女の視点が、もはや私の理解できる感性を超えたように思う。*1
ずっと薄く膜が張った外側から見ている気分。入り込めなかった。

現実的な要素として、弟の結婚式に行く道中で女子大生と出会うこと、結婚式での自分と家族の出来事がある。ここの部分だけ、私は正気に戻って物語を読む。

偶然とマンガ「違国日記」がつないだ縁。普段は全然心を開かないけど、フィーリングがあうとゼロ距離でいける、というのがある。今回はそういうことだったんだと思う。本作の叔母と主人公の関係が、違国日記の槙生と朝の関係に重なり、主人公と女子大生に重なっていくイメージをもった。

年齢差はそんなにないし、それにしては女子大生が元気すぎる?ような気もしたけど、この子の歩んできた道に対する現実への対処はきっと「こう」なのだ。ということが終盤で香り、次回作がありそうな雰囲気を感じる。*2

主人公を通して、亡き叔母を見ていた

ここからは、自分の勝手な感想文。興味のない方は(おまけ)まで飛んでもらって大丈夫です。

この本を読んでわかったのは、今まで私はただ叔母に会いたくて読んでいたのだということ。

1作目「十七八より」で、高校生の時の叔母との記憶を懸命に描いていく様に心打たれて、2作目「未熟な同感者」では、エピソードというよりは叔母が読んでいたものに焦点が当たっていたように思う。

3作目「最高の任務」では、遺された叔母の想いを感じて、また叔母に会えたような感動があった。私にとっての阿佐美景子と叔母の物語はここで終わっていたのかもしれない。そのくらい、最高の任務は叔母の気配が色濃くあった。

本作では、結婚式の前後に家族や弟の友人が知っている叔母のエピソードは出るものの、なんとなく象徴的な要素にとどまっていて、わたしはそれがひたすらに寂しかったのだと思う。*3

私は主人公じゃなくて、主人公を通して亡き叔母をずっと見ていたし、見ていたかったんだな。主人公と同じで、ゆき江ちゃんの人間性に惚れ込んでしまっていたみたいだ。

「新たな要素」は、主人公のきっかけに

それでも現実の世界は続く。主人公には、叔母の痕跡を探して、手に取っては立ちすくむあの繰り返しをずっとしていてほしい訳はない。人は変わるし、ずっとしみったれていては、よくならない。

これはよくあることなんだけど、既存の登場人物の中に入ってくる新たな要素を受け入れにくい時がある。今回のキーパーソン・新幹線で出会った女子大生は、古墳で歌っちゃうくらい伸びやかなところがある。すごくいい子で、きっと賢い。ただ、わたしはゆき江ちゃんとのことを思ってしまい、どこか複雑な思いがこみあげてしまった。

そんなわけで端的に言えば、今回思ったことは「叔母の成分が少ない!もっと叔母を感じたい!」ということになるのだけど。出会いという新たな要素が加わることで、主人公の考えや叔母との記憶の捉え方はどのように移り変わっていくのか。きっと次回作もあると思うので、それまでにもっと遠くから物語が見られるようになりたい。

(おまけ1)普段は特定の誰かに入れ込む「感情移入読み」のわたしは、物語全体を捉える「俯瞰読み」に憧れながらもいつもの型を繰り返し、誰にも入り込めず立ちすくんで終わった、そういう感じです。
物語を物語として読める人になりたい。その気持ちは本当なのだけど。いつまで経っても難しい。

(おまけ2)珍しく他の方のレビューをちらほら読み、「弟夫婦に娘が産まれて、叔母と姪となるのでは」と言っている人がいて、うわあそうかもと思う。こうしている今も、主人公たちは次の作品に向かって日々過ごしているのかもしれない。

(おまけ3)

書き終わって一息つこうとした時、新聞書評を切り抜いてあったことを思い出す。「題名からもわかるように、これをもってひとつのサイクルが閉じた感がある」ん?!あれ、これで終わりなの…?分からない。分からないことばかりだ、この人の作品は。(それがまた、よい)

二十四五

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*1:今まで理解できていたかというとそれも疑問だけど、自分から「あ、もう分かんなそう。」と離れていく感じだった。

*2:いや、こういうこと関係なくただ明るい子なのかもしれない。それはそれでいいなと思う。

*3:私がどう思うと関係はない。勝手な読者だ。