BOOKS:LIMELIGHT

読んだ本を、感想とともに紹介していきます。

時をかけるゆとり(朝井リョウ著、文春文庫)読書日誌

今日は同じ「ゆとり世代」を生きている作家、朝井リョウのエッセイを話していきます。

就職活動生の群像『何者』で戦後最年少の直木賞受賞者となった著者。初エッセイ集では天与の観察眼を縦横無尽に駆使し、上京の日々、バイト、夏休み、就活そして社会人生活について綴る。「ゆとり世代」が「ゆとり世代」を見た、切なさとおかしみが炸裂する23編。『学生時代にやらなくてもいい20のこと』改題。

朝井リョウ「時をかけるゆとり」文春文庫 裏表紙の紹介文より引用

本との出会い

朝井リョウ作品は、「桐島、部活辞めるってよ」の映画を見たくらいでした。内容があんまり思い出せないけど、面白かったことだけは覚えているという感じです。その後、去年の転職活動中に「何者」を買ったものの積み本。転職後、この作品を書店で見かけて買ってこれまた積み本していたわけでした。なんだろう、同年代なこともあり、隣のクラスのちょっと気になる人間の作品…みたいな感覚でした。

内容と感想

大学生~社会人になりたての日々を、割と自虐的に振り返りながら描いているエッセイです。人生でも印象深い出来事が多いと思うので、こんな風に言葉にして残っているのいいなと思いました。一話につき約10ページくらいで、読みやすくてあっという間でした。ゆとり世代は悪く言われることが多いけど…うん。わたしもちょっとアレな世代だなとは思ってます。

学生編20編、社会人3編。全23編を読んでみて印象に残っていることがいくつかあるので紹介していきます。

エッセイを連載していたとき、編集者が書いたあおり文(キャッチコピーのようなもの)を読んで私は動揺した。【現役大学生作家が贈るすこし不安で笑える「日常」へようこそ!】…わたしが「しめしめ、これはエッセイに書くと面白いぞお」と、どや顔で綴った日常は、どうやら「すこし不安」らしい。不安がられちゃった…と私は力なく笑った………

朝井リョウ「時をかけるゆとり」文春文庫 本文より引用

前述のちょっとアレな世代、はこのあたりから感じとれそうです。だから改題したのかな?私個人の意見としては、本全体を通してこれぞゆとりだ!と感じました。感覚的な部分ですが、非常事態への思考回路に自分とリンクする部分がある。これを読んで、大丈夫か…?と思った別世代の方がいたら、それに対しての答えは、「これがゆとり世代なのです。」なのかもしれません。

続いて、驚愕したのが

「すいません、カラーモデルやりませんか?」ちらりと声の主のほうを見ると、短い茶髪。この人は買い物する前にも声をかけてきた美容師さんではないか!

「いや、あの、大丈夫です~」(二回も声をかけられるなんて……と、ちょっといい気分の私)「いやいや、ぜひやってほしいんですけども」(私について歩いてくる美容師さん)

「今ちょっと急いでるので~」(しつこいなあ、とますます鼻の穴が膨らんでくる私)「いや、染めないとダメなんですよ、あなた」

朝井リョウ「時をかけるゆとり」文春文庫 本文より引用

この本にはカットモデル体験をする話が何個か入ってるんですが…これは見事に引火しました。なぜならば、私もかつて同じようにカラーモデルの勧誘を複数されて鼻の穴を膨らませていた過去があるのだから…!!

著者は、美容師さんからそろそろ染めないとダメなんですよあなたと強く指摘されてモデルをすることになり…という話なんですが、美容師さんからカツを入れてもらえてまだ幸せです…うう。昔、結構頻繁に「カラー(とかカット)モデルやりませんか?」と声をかけられていました。私は時にやってもらい、時にあしらいながら有頂天になっていた時期さえあった。(友達とかに自慢げに話したりまでしたことがある、ああ恥ずかしい…)

「それって、声をかけたくなるくらいダメってこと」なんて考えもしなかった。十数年ぶりに冷や水を浴びせられた感じです。謙虚に生きよう。

…気を取り直して!一番心に残った話は、社会人編の「直木賞を受賞しスかしたエッセイを書く」です。知らなかったのですが、直木賞を受賞すると、原稿用紙20枚ほどの自伝的エッセイを書くことが慣例らしいです。著者は人生で一番カッコつけて書いたエッセイを晒し上げる、といっているけど、とても心に残る素敵な文章でした。

タイトルは「ルーレットの目」。著者が幼いころから好きだった人生ゲームとかけながら話が進んでいきます。自分の今までの人生を人生ゲームに例えて、あのエピソードは1マス進む、これは一回休み…と進めていくのでおもしろい。それに史上最年少の直木賞受賞がこのゲームの「上がり」じゃないところも、人生の高みに立ってからも、目標を成し遂げてからも人生は続くのだ…と思わせてくれました。

著者はかっこつけていいところでも絶対にかっこつけません。そういう性分なんだと思います。あとはへこたれない。自分の文を読んだ先生に「ちょっと自分に酔ってる?」と言われても「あ、酔ってる。」と認めて、酔えるくらい夢中になれていることに嬉しがるところ!ここ好きでした。私だったらヘソ曲げて書かなくなりそう。でもそうならない著者だから、ここまで到達したわけですよね。やっぱりすごいや。

長くなりましたが、「時をかけるゆとり」のレビューは以上です。積み本している小説の方も読んでみたい。ちなみにこの作品、「ゆとりシリーズ」というらしく、他にも2作品出ています。が、いま気になっているのは「発注いただきました!」だったりします。ゆとりの星として、これからも隣のクラスのちょっと気になる人間…の距離を保ちながら追っていきたいです。最後まで読んでいただきありがとうございました!